第7話 藍沢さんと恋敵
【前回のあらすじ】
「なんだか女の匂いがすると思ったら、金髪美少女幼なじみがやって来てしまった」
その金髪さんは、美しい髪を手でくるくるといじりながら、野村くんに話しかける。
「そ、そういえば、ら、来週の日曜日空いてるかしら?」
あれだけ自信ありげな態度をとっておいきながら、時に声がうわずり、時に後ろの手癖はもじもじとする。
私はその動作を見て確信した。やっぱりこの人も野村くんのこと好きなんだ。
「来週の日曜日がどうしたの?」
「あ、あんたさえ良ければ、駅前のエオンに行かない?」
私は金髪さんの言葉にビクッとして、冷や汗をかく。こんなのデートのお誘いに他ならない。このままだと目の前で野村くんがとられちゃうけど、割って入るだけの勇気もない。私はドキドキしながら野村くんの言葉を、その口の動きを待った。
「日曜日はちょっと忙しいかな」
「そう……」
私は金髪さんが悲しそうにそうつぶやくのをみて、少しほっとした。そして、野村くんの心の声が聞こえてくる。
『来週の日曜日はあいつの誕生日だし、全部奢らされるんだろうな……』
いやいやいや!! だぶんその金髪さんなら、「仕方ないわね」とか言いながら笑顔でお金払ってくれると思うよ?
『それに、去年あげたプレゼントはどうせ捨てたんだろうし、また選ぶもの選ぶものに文句を言われるんだろうな……』
いーや、よく見て、野村くん。彼女の長い髪をよく見て。金髪の中にピンク色が浮いていない? 彼女、配色が合わないにもかかわらず、ちゃんと髪飾りつけてるよ。しかも、今もほら……手で髪飾り触ってアピールしているよ?
なんで、気づかないかなぁ? 気づいてあげ……
いやいやいや気づかないで! 絶対気づかないで!
でも…………私が何もしなければ、この二人はいつか付き合ってしまうと思う。今だって、野村くんが断ってくれたからいいものの、もし二人でデートなんかしたら間違いなく付き合っちゃう。だって、かわいいんだもん。
あの石原さん並みにかわいい人が身近にいるんだよ? この金髪さんだって、何十通の恋文をもらっているはずだし、それを全部断ってるんだと思う。
でも、なら、こんな私なんかが付き合うよりもよっぽど幸せになれるんじゃ……
私は瞳を濡らす。私自身が導き出したその答えがあまりにも正論過ぎて、どうしようもできなかったから。
「……じょうぶ?」
私は諦めた方がいいのかな……
「藍沢さん、大丈夫?」
思わず私が「えっ?」と口を突いて、振り向いた先には、野村くんが心配そうに私を見ていた。そして、つまらなさそうに金髪さんが私をにらんでいる。
「だ、だいじょうぶ……」
「本当に? なんかあったら言ってね?」
私は「ありがとう」と答えながら、頬が火照っていくのを感じる。その野村くんの言葉に、心は不思議な温かさに包まれて、心臓の鼓動は早くなっていく。
これ、野村くんと初めて会った時と同じ感覚だ……
「ね、ねえ裕太? この人は誰?」
「藍沢さん、最近の席替えでとなりになったんだ」
すると金髪さんは野村くんの席を離れて、私の席の前に立つ。高身長な彼女は座ってる私から見ればかなりの威圧感だ。
「藍沢さん、変な気起こさないでね? 私のものだから」
その金髪さんは具体的に名前を出さないものの、明らかな牽制をしてきた。だけど……
「それは、できません……」
私は震える脚を押さえながら、スカートをギュッと握り、大きな目をにらみ返す。
「えっ?」
「私は諦めません! 絶対に負けません」
私がはっきりとした口調でそういうと、彼女は一歩後ろに下がる。
「ま、まあ、いいわ。あなたがいくら挑もうとも、私には勝てないから」
「どうかしたのか?」
私たちのこそこそとしたやりとりに、野村くんは首を傾げていた。
「いいえ、なんでもないのよ。私は帰るわ。来てやったことに感謝……」
そこで金髪さんの口は止まった。そして……
「ま、またね祐太……ま、また明日っ!」
彼女は顔を真っ赤にしながら、最後は口早になりながらも、きちんとデレきった。そして、駆け足で教室から出て行った。
私はびっくりして目を丸くしたけど、となりの彼はもっと驚いていた。
『かっ……かわいい……』
心の中でそうつぶやきながら、教室の入り口の金色の残像を眺めていた。それはまるで、幼馴染みの魅力に触れて、恋情がめばえるようなシーンで……
でも! 私も金髪さんに負けるわけにはいかない!
私は書きかけのルーズリーフをびりびりに破いて丸めると、野村くんの方に向く。そして……
「へんたい!」
私は笑顔でつぶやいた。
「だから、変態ってなんなんだよ!!」
彼はいつも通りのツッコミをしてくれて、私は少しほっとした。
* * *
「はい次、この問題は仲村さんね」
祐太のクラスに行ったあと、すぐの授業で私は机を涙で濡らしながら伏せていた。
『ゆ、祐太の近くに……かわいい女の子が……』
「仲村さん?」
『だってあの子可愛かったし、あんなの勝てっこない……』
「沙奈? どうしたの? 具合悪いの?」
『で、でも、私の可愛さなら絶対に負けないから……』
「沙奈ってばぁ……」
『勝てる気が全然しない、うわああああん』
「じゃ、じゃあ、仲村さんを飛ばして、次の……」
『超小心者の私に、もうちょっと優しくしてよ!!!』
「えっ? ウチ? いやですよ。ねえ沙奈起きてよ……ねえってばぁ」
ゆさゆさと体が揺れるなか、私は悲しみがとまらなかった。
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