第6話 幼なじみの襲撃

 このクラスでは数日前に席替えがあって、私は窓際の席になった。クラスの人に言わせればここはいい席らしいけど、私は席の場所なんて興味がなかった。


 話す人なんていないし、となりが誰になっても関係ない…………


 それは嘘だ。

 

 私はニヤつく顔を必死に抑えて、まじめな顔をしようとする。だけど、となりの野村くんをみるとまたニヤけてしまいそうになる。


 私は野村くんの近くにいると、心の声が聞こえてくる。でも、それはプライベートの侵害だし、いけないことだと思って、これまで野村くんを避けてきた。


 だけど、席替えなら仕方ないよねっ!


 まさか合法的に心の声を聞くことができるなんて思ってなくて、となりになってから私は毎日が楽しい。

 

 私のことかわいいと言ってくれたら、それだけでとても照れるし、その夜はベットの中でもだえて眠れなかった。


 私の声を尊いと言われたのは恥ずかしすぎて、脳内回路がショートしてノックアウトしてしまった。

 だけど、その後……


 その時のことを思い出すと、私はまた心がもやもやする……


 だって、石原さんと比べたら私なんてミジンコ以下の存在で、もしかしたら野村くんは私なんかに一ミリも興味ないんじゃないかと、不安でいっぱいになっていく。


 さらに教科書は私じゃなくちゃっかり坂本さんに見せてもらって、ひそひそ話もなんだか仲良さそう。


 私は彼を知れば知るほど、不安も増えてきた。


 そしてたった今、私の直感はイヤな予感をビンビンと感じている。なんだか寒気がするし、体も自然と震えてきた。


 お願いだから、これ以上野村くんに可愛い子が近づかないで!!


 そんな、心の叫びも心むなしく、恋敵はやってくる。


* * *


 突然聞こえた野村くんの心の声に、私は思わず箸を落としかけた。私はお手玉をしながらもなんとか箸を止めたけど、その時には手元はどうでも良くなっていた。


『あいつの誕プレなんにしよう……去年はピンクの髪留めをあげたのにこんなのいらないって言われちゃったし……』


 その心は明らかに女の香りをただよわせていて、私は驚きのあまり心臓が止まりそうになる。

 

 もしかして野村くんって彼女いるの?


 私はかちゃんと落とした箸も気にせずに、野村くんの言葉がすごく気になって、口元をじっと見る。


『俺は女心がわからないんだから、そんなに求めないでほしいんだけど。見当外れのもの渡すとたぶん説教されるんだろうな……こっちだって必死に検討して健闘しているのに』


「ぶっ……ふふ……」


 私は完全に油断していて、彼の不意打ちではっきりと吹き出してしまった。悩みごとでダジャレを入れてくるなんてズル過ぎる!


 だけど、彼は考え事に必死で、私を気にする様子もなかった。気付かれなくてホッとしている反面、それはそれで悔しくて私は彼をニラむ。


『中学の頃までは文房具とかでも喜んでいたのに、高校になってから急に文句を言ってきたからなぁ……』


 中学校、文具……この話の内容なら女と言っても、妹さんかもしれない。それなら、私に相談してほしいなぁ、そしてあわよくばデートとか行けたりして……


『でも、急にかわいくなったからびっくりしたんだよね……これまでただの幼馴染みだったのに、いきなり美人になったというか』


 その聞き捨てならない声に、私の甘々な妄想はすぐさま吹きとび、背筋には悪寒が走る。


 幼馴染み? 美人?


 そしてなにより、毎年野村くんから誕生日プレゼント貰えるとか羨ましすぎる!!


 でもでも、じゃあ、もしかしてもう恋人同士だったり……


 ……ウソでしょ? 私は自然と瞳が濡れていくのを感じた。


『でも、キラキラして近づきづらくなったから、今はちょっと苦手だな……昔のままだったら話しやすいのに』


 ほっ……


 どうやら付き合っているわけではなさそう。でも、安心したのも束の間。


 突然バンっと、教室のドアが激しく開くと、そこから入ってきた影がずかずかとこちらへと近づいてくる。そして……


「祐太、席替えしたのね?」


 その女の子は、野村くんを名前呼びにして親しげに話しかける。私はびっくりして彼女を見上げると……


 とてもかわいい金髪ギャルが野村くんの目の前に立っていた。長くてキレイな金髪に、大きな目にそれに高身長。石原さんと比べても遜色ないくらいかわいくて、弱点とすれば前方がなだらかなことくらいしか思い当たらない。すごく自信ありげな外面に、その強気な表情も揺らぎそうにない。


 私はまぶしい金髪さんから目を逸らし、そっと机の下に鏡を取り出して、私自身を見る。

 

 少しごわついた茶髪に、この垂れ目。

 背も高くないし、そんなに大きくもない。

 何より、はっきり喋ることができない……


 そんな可愛い子になびくなんて、もう野村くんなんて知らない!


 あまりの悔しさに、私はそっぽを向いてやった……けど不安過ぎて、すぐに二人の方を目を戻してしまった。


 

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