あに埋(うず)める

秋が僕を置いていった。

10月31日、地球の時間がすべて止まった。

スマホもお嬢も車も、なにもかもがその動きを停止した。

空は晴れていた。燦々と輝く太陽が眩しかった。

そんな世界でぼくはひとりぼっちだった。


秋が私を置いていった。

ハロウィンの日、世界の動きが停止した。

人も娘も車も、なにもかもがその行動を静止していた。

空は晴れている。緑の自然が目に焼き付いてくる。

そんな地球で私はひとりぼっちだった。


そんな世界で僕は、私は、あなたに出会った。

出会ったというか再会だろうか。

一度会っているから。

他のすべてを置き去りにしている世界で、唯一出会えた僕らは、私たちは、喜びあって、そして



嬉しいので、デートすることにした。



🎃🎃🎃🎃🎃



水族館に向かった。

魚たちは水槽の空で、泳ぐことなくその身は人形のように固まっている。

水族館は薄暗くてなにもかもが止まっていて、まるで宇宙空間みたいで、そんな世界で二人きりだった。

イルカショーは見れないか、と私が少し呟くと、うおぉとおどけた声を出しながら、あなたが体を揺らした。

んーイルカの真似といって「私」を笑わせてくれた。

からからとした二人の笑い声が周囲を舞った。



美味しいものを食べ歩きした。

作ってくれる人が動いてはいないから、料られるものじゃなくて、既に料られて売られているものをつまみ歩く。

もちろん食べるときには、会計にその分のお金は置いていって。

味違いの食べ物をあなたは「僕」に向けて食べさせてくれた。

そのあなたの行動が甘ったるくて、「僕」の心は浮かび上がる。



二人で買い物をした。

服やアクセサリーなんかを見て回る。

これが似合うだとかこれがいいだとか、二人で言いながら物色していく。

お揃いの服を買った。

「私」は赤で、「僕」は緑の色違いだけれど、同じデザインのものを。

似合うかなと不安になりながらも、お揃いを買った時のあなたのその表情を見れて「僕」は大満足だ。



あなたの生歌を聴いた。

空いていたライブハウスに二人でこっそり入って、そこで聴かせてもらった。

本日はぼくのライブにお越しいただきありがとうございます、なんておどけながらあなたは言う。

カタオモイ、猫、丸の内サディステイック、そしてMyra。

一生懸命に、でも少し緊張しながら歌うあなたが愛しくて、「私」は自然と笑顔になる。



🎃🎃🎃🎃🎃



「あれっ?」

見合せずに二人してそう言った。

なんとなくだが、この停止した夢のような時間が終わる気がしたのだ。

そう感じたらもう帰らなければいけない。

もう、終わりにしなくちゃいけない。

けれど、悲しまずに、泣いたりせずに、僕は、私は、あなたに笑顔でまたねを告げる。

「またね、××」

「またね、××××」

その言葉とともに、世界はまた動き始めた。

地球は呼吸をまた見出だす。

僕らは、私たちは、そのまま目覚めて。



🎃🎃🎃🎃🎃



秋が僕を乗せていた。

停止なんてせずに、みんな普通に動いている。

あれは夢だったんだろうか?と素直に疑問を抱けるくらいには、なにもなかったかのように世界はそっぽを向いていた。


秋が私を乗せていた。

なにも止まってはいなかったし、仕事の時間も平気で来ていた。

夢を見ていたんだろうか?と現実を見てしまうほどに、地球は昨日の記憶を失っていた。


「「あっ、そういえば服」」


お揃いの服を買ったんだったと思い出した。

家に帰ったら探してみよう。

僕は、私は、そう思う。

服があったならそれは夢じゃないってことになる。それはとても、幸せだ。

服がなかったらそれは次会えたときの夢になる。それはとても、幸せだ。


今日の帰宅が少し楽しくなった。

これもきっと、あなたのおかげだ。






停止した世界で、「あ」の二人は再会を果たす。

ハロウィンの魔法でも、神様のいたずらでもなく、きっとそれは平凡な夢の形。

世界の動きが停止した世界で、二人、静かにデートする。

ただただそんな幸せなお話。

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