第11話 甘縄神明神社

そう言えば、3日ほど田辺三佐男が出勤していない。

キャンピングカーの窓際で目玉焼きとロースハムにサラダとトースト。

ホットコーヒーという朝食を取りながら、鶴薗が気づいた。

『たしかに、3日ほど見かけ

 ませんね。』

今朝の相棒は、小林である。

ムヴェアリアの営業は、午前10時からなので、小林と鶴薗は、午前9時現在のんびりと朝食をしていられる。

午前9時半を過ぎた時。

鶴薗の携帯が鳴った。

森川からである。

『鶴さん・・・

 神奈川県警から問い合わせ

 があって。

 鎌倉の甘縄明神神社で、射

 殺遺体が。

 運転免許証から、田辺三佐

 男らしい。

 鎌倉署まで行ってくれ

 るか。』

神奈川県警鎌倉署の遺体安直室田辺三佐男は、無残な射殺遺体として横たわっていた。

鶴薗は言葉にならない。

鶴薗から連絡を受けて付き添いで来ていた勘太郎も絶句するしかなかった。

『この弾創。

 マクミランのカスタム銃。

 マクミランTAC50カス

 タム

 自分で改造した銃で。

 実行犯は、シャリフ・アブ

 ドラかいな。』

勘太郎の呟きに、鎌倉署の刑事達は騒然となった。

『鶴薗警部補殿。

 ご遺体の傷を見ただけで、

 死因はもとより、我々でさ

 えまだ特定できていない凶

 器を言い当てる。

 何者なんですが。』

鶴薗は、かなり得意顔で。

『警察庁刑事局長真鍋勘太郎

 警視正ですが。何か問題

 でも、』

問題は大有りである。

捜査課の部屋で、勘太郎と鶴薗は、熱いお茶を頼んだ。

応接にも腰かけない。

2人供あくまでも現場育ちなので、パイプ椅子や事務椅子の方が落ち着く。

廊下の方が騒がしくなってきた。

この警察署の幹部が勢揃いして、刑事課にやってきた。

もちろん、勘太郎に挨拶するためである。

刑事課の部屋では、警部達の様子に、鶴薗と勘太郎がただ者ではないと女性職員達が噂をし始めていた。

そこへ、署長から大幹部が勢揃いして、慌てた顔で行進してきた。

後ろには、他の課の女性職員達が行列を作っている。

『警察庁刑事局長

 真鍋勘太郎警視正に

 総員敬礼・・・。』

鎌倉警察署長の号令が飛び。

捜査課はもちろん、礼服の署長以下の大幹部はもとより、制服警官に至るまで居合わせた全員が直立不動の最敬礼をした。

一般の事務職員では、なかなか見ない光景であろう。

だいたい、警察庁のトップクラスが、一般の警察署を訪問するなど聞いたこともない。

『あの若い人ですよね。

 そんなに偉い人なんで

 すか。』

新人職員は、知らない者すらいる。

『日本の警察官で一番偉い人

 ってわかるか。

『警視総監。』

『その次の人や。

 日本の警察官で二番目に偉

 い人があの人。

 しかも、奥さん女優の

 高島萌。

 今の警視総監の息子。

 ちょっと揃い過ぎかもな。』

その時、警視庁の森川警部が駆け込んできた。

『森川さん。

 警視庁捜査1課全員に、防

 弾チョッキ着用させて下

 さい。

 拳銃じゃ、無駄やな。』

『ですね。

 相手は、イスラムの過激派

 ですから。

 スワットでも待機させま

 すか。』

『無駄ですよ。

 警察特殊部隊程度で、

 軍隊特殊部隊に太刀打ちで

 きますかいな。

 犯人を生け捕りにする訓練

 しか受けてない警察官の限

 界ですよ。

 相手は、人を殺すための道

 具です。

 スワットじゃ、何人犠牲者

 が出るのか。』

『警視正は、戦闘になるとの

 お考えですか。』

『冗談やない。

 むしろ、戦闘に持ち込める

 方が楽ですよ。』

たしかに、東京や横浜で撃ち合いなど、もってのほか。

勘太郎には、作戦があるのだが、実行する場所を決めかねていた。

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