第9話 鶴薗の執念
瀧川さゆりは、ムゥェアリアベリーダンス教室に通っていた。
その美貌から、田辺三佐男に限らず、言い寄る男は多数だったそうだ。
瀧川さゆりは、そんな男達は歯牙にもかけずに軽くあしらっていたようで、妬み嫉む熟女が複数いたらしい。
ここから、少し様子が変わってきた。
田辺三佐男はじめ、ムゥェアリアの男達は、瀧川さゆりに軽々と肘鉄を喰らって尻込みしていたようで、むしろ、嫉妬心にジリジリしていたおばさん達の方が怪しくなってきた。
これは、さすがに勘太郎では理解が困難。
『おばちゃんの怨みは怖い
から。』
まさか、六条の御息処の姿が表れたのかもしれないとまでは勘太郎は考えている。
原点過ぎる気もするのだが。
自分は、元々魔界刑事だったはず。
勘太郎は鶴薗に、そんな考えを打ち明けてみた。
その日から、鶴薗は田辺三佐男の尾行をはじめた。
田辺三佐男、かなりの女たらしで、ほとんど毎日違う女性と街中へ消えて行く。
ムゥェアリアベリーダンス教室での田辺の受持ちは3クラスで、約60名。
うち20名が、田辺となんらかの付き合いをしていた。
食事だけの者。
街中をブラブラする者。
もちろん男女関係の者。
鶴薗は、男女関係の者にしぼって捜査を開始した。
的がしぼれるまでに約半年。
さすがに、田辺と全女性をマークし続けるのは鶴薗1人では無理があった。
新藤幸太郎と小栗刑事が、交代で協力していた。
そんな中、上京してきた京都府警察の小林が、新藤幸太郎の撮影してきた動画を見て、あることに気がついた。
『幸太郎さん・・・
この人、回数が多いような
気がするんですけど。』
仲里エリカという30代後半もしくは40代と思われる女性。
独身で、銀座でブティックを経営している。
当然、かなりの高慢ちき女。
傲慢で、嫉妬深くて、イヤミでという本来的に嫌われる性格。
瀧川さゆりは、そんな女の嫉妬を真っ向から受け止めていたようだ。
田辺は独身、仲里エリカも独身で、2人がどんな付き合い方をしても問題はない。
瀧川さゆりには鶴薗がいた。
そんな瀧川が田辺のアプローチに肘鉄を喰らわせたのは、当然のこと。
田辺の誘いになびこうともしない瀧川さゆりに不思議と嫌悪感を持ったようだ。
普通なら、田辺は仲里の彼氏である。
彼氏の浮気の誘いに乗らない相手を嫌うことなどない。
という、先入観が勘太郎にはある。
『もちろん男女のことに、形
はないとは思う。』
また、夕食の時に萌の前でボヤいていた。
だからといって、そんなことが殺人の動機にまで発展するとは思えない。
勘太郎は、そんな気持ちでいた。
『その仲里さんって人、田辺
って人に愛されていはるん
でしょうか。
その田辺さんって人、女の
敵やと思います。
身体だけが目的で、場合に
よってはお金まで。』
またまた勘太郎は、大きなヒントを萌からもらった。
仲里エリカは、ゆくゆく田辺に棄てられることを知っていたとしたらどうだろう。
瀧川さゆりに傾き始めた田辺の心を引き戻すために、瀧川が田辺に興味を示さなくても、いつ何時変わるかわからない女心を押さえつけたい。
という考え方にならないとも限らない。
瀧川に鶴薗というフィアンセがいることを知っていたら、また別の結果になっていたのかもしれない。
『しかし、女性とはいえ。
銀座でブティックのオー
ナー。
人を見る目は、ありそうな
もんやと思うけどなぁ。』
勘太郎は、またまた考えあぐねていた。
『恋は、盲目って言葉、知ら
んの。』
萌がポツリと一言。
勘太郎にしてみれば、なるほどである。
そんな中、小林警部補が、京都と東京を何度も往復していた。
明らかに、佐武の密命を帯びている。
小林は、東京では新藤幸太郎又は小栗刑事と同行していた。
『コバ・・・
お前、サブに何をやらされ
てるねん。』
佐武は佐武で、原点から鑑識捜査をやり直していた。
『瀧川さんが入れられていた
寝袋からな。
瀧川のものやない髪の毛と
か指紋とか出たんや。』
それが、日本の警察のどのデータにアクセスしても一致するものがないという。
そこで、小林が関係者の髪の毛や指紋を持って京都と東京を往復していたというわけだった。
警視庁の鑑識でもできそうなものだが、髪の毛や血液の鑑定には、実物の方が正確に出る。
そして、小林が警察庁刑事企画課広域捜査室に勘太郎をはじめ、全員を招集した。
もちろん、鶴薗の顔はある。
今回は、警視庁捜査1課長森川警部にも出席を依頼した。
『瀧川さゆりさんの御遺体は
京都の六条河原町にある。
延寿寺というお寺の鐘楼門
に遺棄されていたわけで
すが。
寝袋に入れられてました。
今回、私は、新藤警部補と
小栗巡査長にご協力をいた
だき、数点の採取をするこ
とができました。
寝袋に付着していた指紋と
染み込んでいた汗を鑑定し
た結果、指紋・汗共に仲里
エリカのものと一致しま
した。
染み込んでいた汗の量。
寝袋の奥に残っていた髪の
毛の量等から判断して、瀧
川さゆりさんの御遺体を遺
棄した寝袋は仲里エリカの
物と断定してもいいという
佐武課長の鑑定です。』
少なくとも、何らかの形で、仲里エリカが事件に関与したことは間違いない。
『田辺が仲里のヒモであるこ
とは明らかなんやけど。
事件の主導権はどっちや。』
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