第7話 進展

捜査は、ようやく手掛かりの糸の切れ端が見えた程度。

田辺三佐男というイスラム教徒の日本人が、銃の改造を依頼しただけのこと。

田辺が、銃の所持許可証を取得していたら、銃刀法違反でしかない。

もちろん、逮捕はできるが、罪は、大して大きく問えない。

案の定、田辺三佐男は、銃砲火薬所持免許証を取得していた。

田辺三佐男を泳がせ、実行犯を検挙しないと、敵討ちにはならない。

東京に帰った勘太郎は、瀧川さゆりの大田区ムスリムとの接点を探り始めた。

むろん、鶴薗が中心であるのだが、鶴薗は、感情が先走りしないとも限らない。

鶴薗の身を案じて、行動を共にすることにした。

その日、森川警部も誘って、3人でムヴェアリアで夕食、

ホールのウェイターに、少し浅黒い日本人の男。

『鶴さん。

 奴が、田辺三佐男や。

 顔、覚えて下さい。

 見たところ、ムハンマド・

 ザッカルディがおらへん。

 明日から、田辺に張り付い

 て下さい。

 田辺とムハンマドザッカル

 ディから、必ず手掛かりが

 出てきます。』

翌日から、鶴薗の執念とも言える張り込みが始まった。

勘太郎と森川の心配をよそに、鶴薗は、ベテラン刑事の味を遺憾無く発揮して、田辺三佐男とムハンマド・ザッカルディの行動に注視すること1ヵ月に及んでいる。

ムハンマド・ザッカルディのイスラム料理店ムヴェアリアの隣の建物が、イスラムのモスクであることを突き止めた。

ムヴェアリアとモスクを張り込む目的で、向かいの首都高速高架下の駐車場を借りて、キャンピングカーを停めては長期戦に備える鶴薗に、小栗が何かと差し入れを持ち込んでいた。

そこに、鶴薗の正式な相棒になっている新藤幸太郎刑事が加わって、さながら、3人のチームになっていた。

『幸太郎が付き合ってくれる

 のは、まだわかるとして

 もや。

 小栗は、なんでそこまでし

 てくれる。』

鶴薗は、2人に対してありがたいが、申し訳ないと同居している。

『田舎出身で、1人暮らしの

 僕に、さゆり先輩は、警部

 補のお弁当といっしょに、

 僕にも。

 だから、僕にとっては、警

 部補が兄で、さゆり先輩が

 姉のように思えていたん

 です。

 だから・・・。』

そこまで話すと泣き出してしまった。

どうやら、瀧川さゆりを良き先輩として心底慕っていたようだ。

キャンピングカーであるので、生活施設はある程度揃ってはいる。

トイレとかシャワーの廃水は、直接下水道のマンホールにホースで接続しているため、清潔は保てている。

電気は、駐車場の電灯から借りているので、空調も使える。

それでも、日本人はお風呂に肩まで浸からないと疲れがたまる。

定期的に勘太郎が夕方に参加して、近くの銭湯に鶴薗を行かせている。

食事は、小栗と幸太郎が届けていた。

小栗と幸太郎が、見張っている時間に鶴薗は睡眠をとる。

そんなある日、張り込み初日からは、3ヵ月近く経っていた。

『シャリフ・アブドラや。』

勘太郎が呟いた。

鶴薗が大急ぎで起こされた。

小栗は、勘太郎の指示でシャリフ・アブドラの入管記録を確かめに行った。

『何者なんですか。』

鶴薗と幸太郎は、ピンときていない。

『シャリフ・アブドラ。

 タリバンのナンバーワン狙

 撃手。

 あいつやったら、1000

 メートルくらい楽勝や。』

2時間後、小栗が血相を変えて戻ってきた。

『シャリフ・アブドラは、先

 月の6日に入国してました。

 その日のうちに、新幹線に

 乗りました。

 下りたのは、新大阪です。

 翌朝、田辺の車が、シャリ

 フの泊まるホテルに現れて

 ます。

 田辺の車が、同日午後に京

 都東のインターチェンジを

 出てます。』

その翌日、瀧川さゆりが狙撃された日。

つまり、瀧川さゆりを狙撃するために、シャリフ・アブドラを呼び寄せたと考えることができる。

四条大橋付近の防犯カメラの映像が集められ、徹底的に探すことになった。

以前は、四条大橋東詰めの地下道の通路の屋根という特殊な事情から、防犯カメラ映像は、四条通りの通行人までの確認はされていなかった。

四条大橋東詰め洋食レストラン菊水の前に白い箱型ライトバンが止まって、肌は浅黒いが西洋系の顔立ちの外国人が数人作業を始めた。

筒状の物を2人がかりで川端通りを大橋側に渡ってきた。

後を追って、アルミの梯子を運んで来る男も確認された。

同じ頃、四条河原町の交差点から東に向かう外国人が写った。

『シャリフ・アブドラや。

 盲点突かれたな。』

木田が、呟いた。

同時に、この結果が佐武によって、勘太郎に伝えられた。

『実行犯は、シャリフ・アブ

 ドラで決まったとしてや。

 シャリフ・アブドラは、プ

 ロの狙撃手、

 狙撃に理由も動機もあらへ

 んやろう。

 理由は金。

 目的も金。

 動機も金。

 依頼主探しか。』

東京では勘太郎が、深呼吸をした。

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