第6話 意外

小林と須藤の報告では、田辺三佐男という男がライフルの改造を依頼していた。

改造とは言っても、実質は改悪とも言える内容。

報告を受けた本間と木田も首をひねってしまった。

当然、人名検索ではヒットするはずもない。

鑑識の部屋には、近くの王将からテイクアウトしてきた中華の匂いが蔓延している。

『そんなもん、偽名偽住所や

 ろう。』

大方の意見は、そうなっていた。

『勘太郎・・・

 温かいうちに食えよ。』

本間が、少し気にしている。

勘太郎は、没頭すると食事も忘れることを知っていた。

『あった・・・。』

勘太郎の声に、鑑識全員が勘太郎を取り囲んだ。

本間と木田と佐武ははなから勘太郎の横に座っている。

『有りましたよ、田辺三佐男。

 東京都大田区のムスリムリ

 ストに。』

一同驚愕するしかなかった。

日本での事件で、そういう選択肢は、まず浮かばない。

勘太郎は、たまたま居酒屋での記憶をたどったに過ぎない。

大田区の居酒屋で、たまたま入ってきたイスラム服の集団に田辺三佐男と呼ばれている人がいたというだけの記憶。

『そんな不確かな記憶から。』

本間は、さすがに呆れた。

『それで、大田区の人間か

 いな。

 ムスリムっていうことは日

 本人ちゃうのんか。』

勘太郎の返答は2種類。

『大田区在住の日本人で

 すよ。

 たぶん、実行犯は別人でし

 ょうねぇ。

 こんな簡単にたどり着ける

 ようなことはしてへんでし

 ょう。』

木田には、もう1つの可能性の疑問が浮かんできた。

『そうやな。

 イスラムの関係があると

 して。

 まさか。』

勘太郎には木田の考えがわかった。

『それは、ないと思いますよ。

 目的がわからんですし。

 目標がピンポイント過ぎま

 すよね。』

ここで、本間が木田と勘太郎の考えに気がついた。

『なるほどな。

 テロにしては、意味がない

 なぁ。

 せっかく四条大橋で、銃を

 構えられる準備して。

 テロやったら、回り無差別

 に撃ちまくるな。

 わざわざ三条の歌舞練場の

 前にいてる人間をわざわざ

 離れた場所から狙う。

 テロではないか。』

勘太郎には、もう1つ気になることがある。

『マクミランTAC50なん

 て化け物を、わざわざ改悪

 してまで瀧川さゆりを狙撃

 する。

 なんでや。

 瀧川と大田区ムスリムの接

 点から調べてみるしかな

 いな。』

その作業は、鶴薗がかって出た。

『俺が敵討ちせんと。

 さゆりがうかばれへんでし

 ょう。』

勘太郎は、危険を感じたが、鶴薗はベテランの刑事である。

『わかった。

 ただし、無理と無茶はする

 なよ鶴さん。』

一言釘は差したものの、勘太郎には不安があった。

とりあえずということで、この日は勘太郎達と同じホテルに鶴薗を泊まらせた。

翌朝、勘太郎と萌と鶴薗が朝食を取っていると、近づく男。

その男に気付いた鶴薗が。

『お前、来てくれたんか。

 心強いぜ。』

警視庁捜査1課小栗警部補。

言わずと知れた鶴薗の相棒である。

小栗といっしょに、小林がやって来た。

警視庁と京都が合同捜査になると、小林と小栗の協力体制が物を言う。

最近の傾向だ。

ただ、今回は、まだ合同捜査にはなっていない。

『局長・・・

 合同捜査本部を、お願いし

 ますよ。

 警視庁でも、瀧川さんはお

 馴染みになってましたので、

 しかも、警部補の奥さんに

 なるはずやった人ですし。

 弔い合戦。

 我々も、参加させて下

 さい。』

勘太郎と鶴薗には、その気持ちだけで嬉しかった。

取り立てて、合同捜査にできない理由はない。

勘太郎は決断して、警察庁刑事企画室広域捜査準備室に連絡した。

警視庁捜査1課では、待ってましたとばかりに、合同捜査本部の看板が張り出された。

森川警部が、力を入れている。

『えぇか、みんな。

 鶴さんの悲しみは、察する

 に余りある。

 瀧川さゆりさんは、もう仲

 間やったやろう。

 鶴さんの奥さんとしての役

 割を果してくれはった。

 弔い合戦や。

 とことん戦うでぇ。』

森川警部の、少し空回り気味の訓示にも。

『おぉ~。』

という気勢が上がった。

『局長・・・

 ご依頼の件ですけど。

 田辺三佐男は、ムヴェアリ

 アの従業員です。』

勘太郎は、何度も頷いている。

何かが理解できた。

『ということは、ムハンマド

 ・ザッカルディの手下か。

 まさか、リアルタリバンが

 出てくるとはなぁ。

 アルカイーダの戦闘員にま

 では行ってへんか。

 タリバンでも、下っ端だ

 ろう。』

勘太郎の推測は当たっていた。

田辺三佐男は、ムハンマド・ザッカルディの最下級の駒使いでしかない。

ただ、この時は、まだ勘太郎の推測でしかない。

実際のところを調べるように、指示が出て、森川以下の警視庁捜査1課が捜査に当たった。

まったく意外な者が出てきたと勘太郎はしみじみ思っている。

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