第5話 犯人想像。

佐武以下、日本最強とまで言われる京都府警察鑑識課が、完全に裏付けしかさせてもらえない。

『あいつは、昔から鋭い洞察

 力で、事件を解決して。

 俺は、とんでもない友達を

 持ったと思っていた。』

鑑識課員達の前で、佐武が呟いている。

『課長は、どないして刑事局

 長とお友達にならはったん

 ですか。』

若い職員には、よくわからない者が、出始めている。

『あいつとは、同期でな。

 警察学校の寮で同室やった。

 ウマが会ってなぁ。

 あいつが、実はキャリアで

 出世も早いと教えられたの

 は警察学校の教官からや

 った。

 その教官が、現捜査1課長

 木田警部という間柄や。』

その後、木田が勘太郎を相棒に指名して、日本一の検挙率を何年も連続することになった。

『まぁ。そんなことより。

 今は、犯人像の特定や。

 勘太郎のことや。

 ある程度は、わかっとる。

 うちは、犯人像より上の国

 籍とか身体の大きさまで割

 り出したい。』

佐武は、まずライフル銃の特定に取りかかった。

しかし、なかなかこれぞというデータにヒットしない。

そんな中、勘太郎が紙袋を両手にぶら下げてやってきた。

『お疲れです。

 鑑識さん。

 みんな、休憩も取ってへん

 やろう。

 腹減らへんか。

 豚マンがある時や。

 冷めてたら、チンして

 くれ。』

そう言いながら、テーブルに紙袋を置いた。

『京都駅で買うてきたさかい

 なぁ、さすがに冷めてしも

 たかもしれへん。』

関西人には、超お馴染みの手土産。

551蓬莱の豚マン50個の差し入れである。

鑑識室に歓声が上がった。

『勘太郎。

 ありがとう。

 持つべきは、友やな。

 残念ながら、ライフル銃の

 想像すら日本のデータでは

 ヒットせぇへん。』

佐武は、正直に現状を打ち明けた。

ところが、勘太郎はいとも簡単に。

『マクミランのTAC50と

 照合してくれへんか。

 狙撃の世界記録の銃や。

 3450メートルを10秒

 で着弾させた化け物や。

 クレイグ大佐クラスのスナ

 イパーならともかく。

 あのくらいのライフルでな

 いと、あの距離は、そう簡

 単にはなぁ。

 ただし、問題は弾の大きさ

 と銃の口径がなぁ。

 たぶん、改造銃や。

 したら、データには。』

ヒットするわけない。

元々の銃が登録されていても、改造されるとデータとそぐわない物になってしまう。

『なるほど、マクミランなぁ。

 けど、あれは50ミリてな

 大口径の化け物。

 使われた弾はNATO弾。

 サイズがあまりにも。』

佐武と勘太郎は。同じ疑問に引っ掛かった。

パイプ椅子に腰をかけ、コーヒーを飲みながら腕組みをしていた勘太郎がふと顔を上げ。

『小林・須藤・・・

 堺に行ってくれ。

 鍛冶屋協会に質問はしとく。

 後は、動きながら指示

 する。』

いつの間にか、小林と須藤が鑑識に混じって、豚マンを頬張っている。

佐武と勘太郎は苦笑いするしかなかった。

『了解しました。

 あの、これ食ってからであ

 きませんか。』

どこまでもとぼけている。

とはいえ、小林と須藤も朝から何も食べていなかった。

『かまへん。

 晩飯、どっかで食って来い。

 それくらいの時間になる。』

そう言いながら、1万円札を勘太郎が、小林の方に滑らせた。

小林と須藤は、満面の笑みで。

『ありがとうございます。』

2人は、急いでJRで堺に向かった。

京都線と呼ばれているが、ある程度の年齢の方には東海道線の方がしっくりくるだろう。

大阪環状線・阪和線と乗り継ぎ、堺に着いた。

小林と須藤が警察手帳で改札を通ると、声をかけてきた男がいた。

『大阪府警察堺警察署捜査1

 課の玉木と申します。

 真鍋刑事局長から、お2人

 の案内を仰せつかりま

 した。』

勘太郎は、2人が先に食事をしないように、見張りをつけるつもりで堺の署長に依頼していた。

勘太郎の読みは、当たっていたようだ。

小林と須藤は、明らかに落胆している。

10分ほどで鍛冶屋協会の会長と面会していた。

『刑事局長さんのご質問のお

 答えですけど、たしかに巨

 大なライフルの改造をした

 職人がいてます。

 ホンマに、罪にはならへん

 のですか。』

会長は、いろいろ調べているように見えた。

『もちろんです。

 ライフルを改造しても、そ

 れは鍛冶屋さんとしてはお

 仕事ですよね。

 問題は、鍛冶屋さんやな

 くて、使った犯人です。』

小林と須藤は、勘太郎から言われた通り返答した。

会長は、安心したように、

『出て来なさい。』

若い職人風の男が奥の部屋出てきた。

『金谷万平です。

 大きなライフル持ち込みで。

 銃芯を細くて。

 銃の口径が50ミリを7ミ

 リにってことで。

 そんなことしたら、性能落

 ちる言うたんですけど。

 それでもって、500万円

 という破格のお代を先払い

 でくれはったもんで。

 これ、注文書です。』

依頼主は神戸市の田辺三佐男となっている。

小林は、一応手帳にメモをした。

電話報告を受けた勘太郎と佐武は、田辺三佐男という名前を検索した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る