第4話 鑑識本格化

『小林・須藤・・・

 犯人は、俺よりはるかに腕

 の良いスナイパーや、何が

 あるかわからへん。

 万が一、まだ居てたらヤ

 バい。

 全員防弾ベスト着せとけ。』

オリンピック射撃競技金メダリストの勘太郎が自分より上というので。

小林と須藤は、内心ビビった。

『まさか、勘太郎より上なん

 てスナイパーがおるんか。

 オリンピックの世界一ちゅ

 うことは。』

木田は、小林と須藤の両グループの緊張を解したかった。

しかし。

『オリンピックの射撃競技は

 、距離より命中ですよ。

 滅多に、600メートル越

 える競技場はありません。

 それ以上の距離は、練習し

 ません。

 ましてや、400近く離れ

 た場所からピンポイントで

 人間の心臓を撃ち抜くな

 んて、普通は、練習しま

 せん。』

通常のライフルであれば、射程距離は100メートルから600メートル程度。

たしかに、射程距離1000メートル以上という化け物のようなライフル銃もあるにはあるのだが。

空気抵抗や風の影響を受けて、命中させるのは、至難の業。

400メートルといえば、狙撃するには限界に近い。

それを実行した犯人なのだ。

ましてや街中させている。

小林と須藤にしてみれば、冗談ではない。

どこから犯人に狙われているのかわからず。

しかも、世界有数の技術を持つ狙撃手の前に、防弾ベストだけで出て大丈夫なのだろうか。

さすがの小林と須藤もビビっている。

送り出す、本間と木田も覚悟が必要になった。

『アホか・・・

 どこの国でも、正規軍の特

 殊部隊狙撃手並みのスナイ

 パーが、いつまでも現場に

 残ってるかい。』

あくまでも用心のために準備するように言っただけだ。

2組の作業は、静かに順調に進んだ。

祇園石段に向かった小林組は、空振りに終わった。

須藤組は、血飛沫の血痕を何ヵ所と見つけ、見たこともない空の弾頭を拾ってきた。

佐武があわてて鑑識室に走った。

約1時間。

『勘太郎。

 ビンゴや。

 血飛沫と弾頭の血痕。

 瀧川さゆりさんの物や。

 DNAが一致した。』

同じ頃、勘太郎に指示された小林組が四条大橋から戻った。

『勘太郎先輩・・・

 おっしゃる通り、四条大橋

 の東詰めの地下通路の屋根

 上から、煤と薬莢を見つけ

 ました。』

佐武は、また鑑識室に逆戻りした。

『煤は、あの弾頭に付着して

 いた物と一致した。

 薬莢もや。

 あんな所から、射った

 んか。』

ライフルを構えるには、あまりにも不向きな場所から狙い、1発で心臓を撃ち抜くという犯人は、それほど多くない。

しかも、風の強い河川敷で、限界に近い距離で。

四条大橋の東詰めの地下通路の屋根は、少し丸くなっている。

スナイパーの足場としては、踏ん張りが効かない。

河川敷の強風の中、400メートルというと、風の影響を計算して、動く人間の動きを読み、心臓を撃ち抜くという離れ業。

勘太郎は、一同の気を引き締めにかかっている。

本間には、勘太郎の気持ちが手に取るようにわかっていた。

勘太郎の姿を見て、緩みかけている捜査員の気を引き締めるために少し脅しただけのこと。

勘太郎の姿を見た一部の捜査員に安堵の色が浮かんだのを本間は見逃してはいなかった。

もちろん、木田もわかってはいたものの、勘太郎に少しきたいしてしまった。

当然である。

勘太郎と組んでいた頃の実績は、本当に凄かった。

事実。

ほんの一瞬、被害者の横を通り過ぎただけで、殺害方法・殺害現場・犯人像までわかってしまった。

日本一と言われる、京都府警察鑑識課が、裏付けるだけの格好になってしまった。

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