第3話 弔い合戦

鶴薗の後を追ってきた男性が、会議室の後ろで待っていた。

泣き崩れる鶴薗に寄り添って来た。

『鶴さん大丈夫か。』

声をかけながら、鶴薗に近寄ると。

木田と本間が叫び声を上げた。

『か・か・勘太郎・・』

佐武と小林は、尻餅を突いてしまった。

捜査員の中には、すでに直立不動の姿勢で敬礼している者もいる。

瀧川さゆりの両親も、誰かわかっていない様子。

『総員気をつけ。

 警察庁刑事局長真鍋勘太郎

 警視正に、敬礼。』

本間の号令に、会議室が緊張極まってしまった。

京都府警察にとっては、伝説的捜査員だった。

何かにつけて、事件を魔界とくっつけたことから魔界刑事と呼ばれることすらあった、捜査1課長の木田が、まだ警部補だった頃に相棒を務めて、数多くの難事件を解決させて、検挙率日本一に数年間君臨した。

退官した真鍋勘助本部長の孫で高島萌の夫である。

勘太郎。瀧川夫妻の前に進み出て。

『この度は、お嬢さんのこと。

 何と申し上げていいのか。

 私、東京の警察庁刑事企画

 課で、いっしょにお仕事さ

 せていただいてました。

 警察庁刑事局長の真鍋勘

 太郎と申します。』

瀧川夫妻は、そんなトップが来るとは思ってもみなかった。

告別式に、弔電を送り付けて終わりになると思い込んでいた。

ましてや、鶴薗に付き添ってわざわざ東京から。

『元々、お嬢さんと鶴薗君の

 交際のきっかけを作ったの

 は私なんですよ。

 結婚式の媒酌人を頼まれて

 ました。

 家内も喜んでくれていたん

 ですが。』

高島萌を手招きした。

『たまたま、所用で、主人よ

 り先に京都に来てまして、

 僭越ですが、お嬢さんの身

 元確認をさせて頂きま

 した。』

木田と小林が、高島萌が瀧川さゆりについて、よく知っていた理由がわかってうなずいている。

『ところで、勘太郎先輩。

 これって、まさか六条の。』

小林が勘太郎の意見を求めた。

『アホ言え。

 なんでもかんでも、怨霊の

 仕業になんかできるかい。

 ましてや、六条の御息処は

 架空の人やないか。

 ここからは、サブちゃんの

 専門やな。

 たぶん、胸にかすかに残っ

 ている血痕が死因やろう。』

勘太郎から話しを向けられた佐武。

半分呆れ顔で勘太郎を見た。

『さすがは勘太郎。

 やっぱり見抜いたか。

 まだ、距離と角度を分析中

 やさかいに話してへんかっ

 ただけや。

 木田警部も気付いてはりま

 したよね。』

話しを振られた木田はため息まじりで。

『まったく、サブちゃんと勘

 太郎のコンビは。

 最強とかをはるかに越える

 なぁ。

 そんな小さな赤い点に気付

 いて、しかも死因と見抜く

 とは。

 勘太郎にいたっては、鶴薗

 さんに近寄るほんの一瞬通

 過しただけやないか。』

木田を見ていた勘太郎。

『かすかに硝煙の匂いがしたら

 弾創探せって、教えてくれ

 はったのどなたでした

 っけ。』

小林以下、捜査員が硝煙の匂いを嗅ぎに来ていた。

中には、自分ではわからず、臭気計を持ち出した者までいる。

『それにしても、鋭過ぎます

 よ勘太郎先輩。』

後ろのドアから、若い鑑識作業員が飛び込んで来て。

『佐武課長。

 報告します。

 弾の種類と射撃距離。射撃

 角度が。』

かなり肝心なことがわかってきたようだ。

『弾はNATO弾。

 発射銃器は、アメリカ製軍

 用ライフル。

 距離約400メートル。

 少し上の方から撃たれてる。

 腕の良いスナイパーの犯行

 てなとこか。』

勘太郎が、すべて言い当ててしまった。

『おっしゃる通りです。』

鑑識作業員、少し不満気。

佐武が彼の肩をポンポンと軽くさわって。

『鋭いやろう。

 真鍋勘太郎警視正や。』

鑑識作業員は、なるほどと思うより先に、直立不動で硬直してしまった。

その間、何かしらを考えていた勘太郎。

『小林・・・

 鑑識さん数人と、祇園石段

 、上から数段でえぇ。

 血痕探せ。

 須藤・・・

 お前は、鴨川河川敷、歌舞

 練場前辺りを入念に頼む。』

小林と須藤が、鑑識作業員を5人づつ連れて出動した。

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