第2話 京都駅前からは近い
『連絡はついてもなぁ。
最低5~6時間はかかるや
ろう。
とりあえず、本部に連れて
帰るしかないなぁ。』
本間の指事で、佐武が準備を始めた。
しかし、15分ほどして、現場の端にタクシーが止まって、タクシーから下りた女性が警戒の警察官に何やら話している。
『あの・・・
小林警部補・・・
被害者の関係者とおっしゃ
る方が。』
身元が判明していないのに、関係者など呼ぶわけない。
佐武の横で鑑識作業を見守っていた小林が振り向いて、コケそうになった。
『せ・せ・先輩・・
佐武先輩・・・』
小林のうろたえように佐武も振り向いて叫び声を上げた。
『も・も・萌さん・・』
続いて糸魚川夫妻が、叫ぶ。
『お・お・大女将・・・。』
『姐さん・・・。』
騒ぎに気付いた真鍋勘助本部長と本間刑事部長、木田警部は満面の笑顔で迎えた。
沈みかけた現場が、みるみる華やかになった。
高島萌である。
『お祖父様の退官式に、いき
なり顔出ししたら。皆さん
驚いてもらえると思って。
これやったら、台無しです
やんねぇ。
とはいえ、まずは被害者さ
んの身元確認するように言
われてますさかいに。』
そう言って、被害者のストレッチゃーに近づいた。
佐武が寝袋を捲り、萌に顔を見せた。
『さ・さ・さゆりちゃん。
なんで。
夏にお休み取れへんかった
から言うて。
帰省するって聞いてたのに。
京都の娘やなかったはずや
のに。
サブちゃん・・・
小林君・・・
この娘は、たしかに警察庁
刑事企画課広域捜査準備室
の瀧川さゆりさん。
階級は、たしか警部補さん
どす。』
制服警察官や鑑識作業員達は、人気女優の高島萌が事件の関係者になると思い込んで、ニヤケている。
『そこまでご存知の方ですか。
帰省中の予定やったと。』
小林、メモ帳を取り出して、書き込んでいる。
木田の指令で、京都府警察本部捜査1課第1会議室に捜査本部が開設された。
『被害者は、警察官。
休暇中やったとはいえ、そ
れほど油断するような感じ
の人ではない。
被害者は、警察庁刑事企画
課広域捜査準備室の瀧川さ
ゆり警部補。
そこまで言うたら、どうい
う教育されてたかわかる
よな。
なんちゅうても、あの真鍋
勘太郎警視正の直属の部下
やった人や。』
古株の捜査員には、緊張感が高まった。
『あの、鋭い人の部下や。
休暇中でも油断なんか。
それとも、それほどリラック
スできる相手か。』
様々な憶測が沸き立つ。
会議室が騒然とする中。
真鍋勘助本部長の退官式の時間が近づいてきた。
真鍋勘助本人と本間刑事部長と木田警部の3人は席を立った。
傍らの小机を借りて、何やら書いていた高島萌も、いっしょに立ち上がった。
真鍋勘助の退官式で、萌は予定になかったスピーチをすることになった。
義理とはいえ、親族である。
たまたま、取材に来ていたメディアには、特ダネになった。
その間、佐武と小林が、捜査を進めている。
『瀧川さんって、滋賀県の大
津市のしかも、比叡平の出
身の方やったんですね。
そら、京都に詳しゅうても
何の不思議もあらへんし。
ご友人と京都で会う約束と
かしてはりませんでし
たか。』
瀧川さゆりの両親が、京都府警察本部にやって来て、いろいろ質問を受けていた。
しかし、28歳の女性。
それほど両親と会話はなかったようで。
両親は、ほぼほぼ何も知らなかった。
その時、会議室に1人の男性が息急ききって、入ってきた。
『本間刑事部長・木田警部・
佐武警部・小林君。
ご無沙汰しております。
奥様・・・
ご連絡、ありがとうござい
ます。
お父さん・お母さん・・・
何と言って良いのか。』
男は、ほとんど号泣しながらも、そこまでの挨拶をして崩れ落ちた。
本間以下、京都府警察の面々は事情を知らないので、呆気にとられている。
『本間さん・・・
鶴薗警部補・・・
実は、瀧川さんの許嫁者で。
勝手ですけど、私が連絡さ
せてもらいました。』
本間以下、鶴薗と知り合いの面々は、驚いて泣き崩れている鶴薗に駆け寄った。
わけがわかっていない京都府警察本部の面々も、沈痛な面持ちでいるしかなかった。
『警察庁刑事企画課広域捜査
準備室瀧川さゆり警部補。
ならびに、許嫁者。
警視庁捜査1課鶴薗警部補に対し、総員敬礼。』
本間の号令で。全捜査員が、事情を理解して、緊張が高まった。
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