京都魔界伝説殺人事件六条の御易所
近衛源二郎
第1話 丸竹夷二
丸竹夷二押し御池。
京都の街を東西に走る通り名を、京都御所の南、丸太町通りから順番に南に下っていく。
わらべ歌です。
子供達は、手鞠をつきながら歌い、通りの名前を覚えていました。
丸竹夷二押し御池・・・
姉三六角蛸錦・・・
四綾仏高松万五条・・・
雪駄ちゃらちゃら魚の棚・・・
ここまで歌えば、かなりご理解いただけると思います。
昔、五条といえば、かなり御所から離れていた、京都の南の端に近いと。
源氏物語の時代、その五条より、さらに南。
六条に一人の女性が庵を構えていました。
庵とはいっても、広大な土地に、御殿かと思うような建物。
源氏物語に出てくる架空の女性。
六条の御息処(ろくじょうのみやすんどころ)
光源氏の若い頃の恋人とされ、その、あまりにも強い嫉妬心の描写から、生き霊となって、光源氏の恋人を呪い殺したとされる人物です。
六条の御息所(ろくじょうのみやすんどころ)
ただ、そのあまりに強大な怨念の描写のために、現代まで様々な災いをもたらした怨霊に数えられてしまいました。
紫式部さんは、なぜにこんな悲しい女性を設定されたのでしょうか。
架空の女性でありながら、怨霊と言われてしまうほどの強い怨念を描く必要とはいったい何だったのでしょう。
いろいろ興味深い女性ではありますが。
京都の繁華街の中心と聞かれると、四条河原町と答える方が多いと思います。
その四条河原町を南下して五条を過ぎると車の量が激減します。
現在、五条通りは国道1号線と9号線になりますので、その交通量は多くて当たり前ですね。
六条河原町の辺りでは、警察がスピード違反の取り締まりを度々行うほどの速度が出せるほどガラガラになります。
静かな日曜日の朝。
けたたましいサイレンの音が六条河原町の交差点に集まった。
六条河原町交差点の西北角。
延寿寺というお寺の鐘楼門があり、入れないように鉄柵で閉められている。
源融の邸宅跡で、後鳥羽上皇ゆかりの寺院であるのだが、普段は一般公開していない。
当然、観光客はいない。
場所が場所なので、通行人も、極めて少ない。
鐘楼門と鉄柵の間に少しだけ地面が見えるのだが、その地面に紺色の寝袋が転がっていた。
発見者は、斜め向かいの高級マンションの住人である。
毎朝、若い夫婦で、散歩していたので、異変に気がついた。
寝袋から、人の手のような物が見えるということで、110番したという。
ことなかれを通しても良かったのだが、この110番通報者、関係者に警察官が多い。
『申し訳ありません。
一様、第一発見者になりま
すので、本部の人が来るま
で、お待ち下さい。』
警察官が、申し訳なさそうに頼んでくる。
ところが、京都府警察本部から到着した車を見て、現場の警察官達は、ひっくり返った。
黒塗りのトヨタセンチュリーとレクサスLS400。
真鍋勘助京都府警察本部長と本間刑事部長がセンチュリーに同乘。
レクサスには、京都府警察本部捜査1課課長の木田警部と副課長の小林警部補が同乘してきた。
被害者の情報は、まだ無い。
『どういうことだろう。』
現場の警察官達全員が思った、その時。
『糸魚川君、美野里ちゃん、
大丈夫か。』
真鍋勘助本部長から、声をかけられたのは、第一発見者の女性。
『あの夫婦のことは、覚えて
おいて損はないぞ。
祇園の乙女座の糸魚川さ
んや。』
制服の巡査ですら、その名前を知らない者はいないほど有名な店である。
捜査1課副課長小林警部補が、制服の巡査にアドバイスをしてくれた。
『おはようございます。
本日の退官式、お招き
ありがとうございます。』
真鍋勘助京都府警察本部長も、ついに定年退官となり、退官式と祝賀会が行われることになっていた。
『まったく、おめでたい朝や
のになぁ。
それで、被害者さんの身元
はわからへんのかいな。』
鑑識作業員が、すっとんきょうな声を上げた。
『どないした。』
まずは、京都府警察本部鑑識課長の佐武に報告。
佐武の顔色が、みるみる変わっていく。
『これは・・・
えらいことです。
被害者さん、警察官。
しかも、警察庁刑事企画課
広域捜査準備室の所属。
勘太郎の部下や。』
現場が一気に緊張した。
『とりあえず、連絡。
面通しに来てもらえ。』
本間の指示で、小林がすぐに電話をかけた。
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