20 人形願望
1
7歳の女子L、遺伝子に命じられ
人形を手作りすること決意
綿、晒の布、針糸鋏
どこから手に入れたものか
胴体、手脚四本、それぞれの大きさに
チクチク縫った
ひっくり返して綿を詰める
手脚は細くて大変だ
綿を包んだ布をぎゅっと絞って
丸い頭の出来上がり
胴体に押し込む苦労
手脚は仕方ない背中に縫い付けよう
毛糸の髪の毛つけたら
さあ顔だ
インクで丸いおめめ
睫毛もばっちりだ
近所の女子たち毎日見に来た
お人形なんて買えないその日暮らしの
2
母親からはいと渡されたもの
とっくに諦めていたもの、母の手造りの人形だった
自作の人形より大きい
そういえば
どんなにねだっても全然作ってくれなかったのに、
やっと?
でもどこか目の形が可愛くない
しばらくしてLはその子を近所の子にあげてしまった
それほど疎ましかった理由は不明
(今から思えばYの自立心を母親は否定したのだ)
3
小学4年だったが
社会の宿題中に母が、珍しく質問した
「世の中で一番感謝しなくちゃならない人って誰だと思う?」
世の中のことを習っていたのでLはありたけの職業をあげた
「お百姓さん?」x 「大工さん?」x 「魚屋さん?」x 「先生?」x
万策尽きて「誰なのよ、おかあちゃん、教えて」
「それはね、お父さんとお母さんよ」
Lは真っ青になった
ひどい裏切りのように思われた
無償の愛ではなかったのか、
ありがとうと強いられるような上下関係だったのか
他人のように
いつか自然に心からありがとうと言うのが親子ではなかったのか
そんな風にLが考えた訳ではなかったが
母なる存在は突然遠い遠い向こう、Lはひとりでこちらにいた
3
長い年月が過ぎるうちに、その記憶も薄れた
Lの心から消えることは無かった
思い出すたびに、母はあれを言うべきではなかった、と付け加えた
母の無い子のように
4
Lには本物のお人形ができた
長年の練習はこのためであったこと
温かい自分の子ども、共にいるだけで充足していた
それでもある日、ひとりふたりと子どもを失った
かれらはLに有り難う、と言って別れた
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