20  人形願望


7歳の女子L、遺伝子に命じられ

人形を手作りすること決意


綿、晒の布、針糸鋏

どこから手に入れたものか


胴体、手脚四本、それぞれの大きさに

チクチク縫った

ひっくり返して綿を詰める

手脚は細くて大変だ


綿を包んだ布をぎゅっと絞って

丸い頭の出来上がり

胴体に押し込む苦労

手脚は仕方ない背中に縫い付けよう


毛糸の髪の毛つけたら

さあ顔だ

インクで丸いおめめ

睫毛もばっちりだ


近所の女子たち毎日見に来た

お人形なんて買えないその日暮らしの


母親からはいと渡されたもの

とっくに諦めていたもの、母の手造りの人形だった

自作の人形より大きい

そういえば

どんなにねだっても全然作ってくれなかったのに、

やっと?

でもどこか目の形が可愛くない


しばらくしてLはその子を近所の子にあげてしまった

それほど疎ましかった理由は不明

(今から思えばYの自立心を母親は否定したのだ)


3

小学4年だったが

社会の宿題中に母が、珍しく質問した

「世の中で一番感謝しなくちゃならない人って誰だと思う?」


世の中のことを習っていたのでLはありたけの職業をあげた


「お百姓さん?」x 「大工さん?」x 「魚屋さん?」x 「先生?」x

万策尽きて「誰なのよ、おかあちゃん、教えて」


「それはね、お父さんとお母さんよ」


Lは真っ青になった


ひどい裏切りのように思われた

無償の愛ではなかったのか、

ありがとうと強いられるような上下関係だったのか

他人のように

いつか自然に心からありがとうと言うのが親子ではなかったのか


そんな風にLが考えた訳ではなかったが

母なる存在は突然遠い遠い向こう、Lはひとりでこちらにいた


長い年月が過ぎるうちに、その記憶も薄れた

Lの心から消えることは無かった

思い出すたびに、母はあれを言うべきではなかった、と付け加えた

母の無い子のように


Lには本物のお人形ができた

長年の練習はこのためであったこと

温かい自分の子ども、共にいるだけで充足していた


それでもある日、ひとりふたりと子どもを失った

かれらはLに有り難う、と言って別れた

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