21  ふるさとの点景


Lの母親は複数名いた

老いたのや若いのや

Lの祖父は最初ただ一人の男親であった

強く頑固で笑わず坊主頭の大男


金色に光る錦江湾と

七色の完璧な稜線を持つ桜島を

並んで眺めた

たった一冊の絵本を読んでくれた

少しでも間違って読むと

幼いLがそれを注意した

祖父はその時は笑った、嬉しそうに


西瓜は深い井戸で冷やす


平たい敷石で夏は行水をした


いちごは小山にのぼりつつちぎって食べる


へびいちごの美しい墓の石段


陶器のおおがめに咲くホテイ草の淡い花


大八車に乗せられて登る丘の上

サツマイモの畑で生を齧ってみた


小笹とお茶の生垣沿いに

小径を走る

空襲の時、焼夷弾が落ちるからと

はずしてしまった天井をつけることもなく

屋根一つのボロ屋住まい


未婚の美しい叔母たちが歌を口ずさみながら

洋服を縫っていた

没落の地主の一家


Lはにわとりを抱っこして

子犬をおんぶして遊んだ

竹細工の包丁を祖父が作ってくれた


20年の時は過ぎ

娘たちは嫁に出し、祖父は半身不随となる


最期に会いにいったとき

Lの心は離別を知っていた

溢れる涙を何とか隠す

「どうした、泣いたような顔じゃっど」

Lは必死で微笑もうとした


祖母も逝き、家は山崩れで崩壊した

その時近所に二人の犠牲者すらでた


土地は売られ

先祖代々の墓は他県に移された

また30年の時が流れ、

墓守をしていた叔父も亡くなった


Lの母親にとって、そこは今も光り溢れる泉

いつまでもいつまでも思い出話は尽きなかった

Lにとってもふるさとはそこ

それが母娘を繋いでいるかのようだ

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