17 誰のせいだと言いたいのか
ーープロローグーー
Lが父親の佑司と出会ったのは
三歳ごろだった
「お父ちゃんはどこ?]
「マルシャンスク」
それはソ連のどこかの寒い町だ
佑司が帰国を許されたので
母親の夕子と駅に迎えにいった
本当は舞鶴まで行きたかったのに
と夕子は舅を恨んだ
佑司は会う前に顔を洗いにいき
夕子はその時間をじれったがった
木炭バスに初めて乗った
最後尾の席でLははねて喜んだ
お父ちゃんより跳ねるバスに夢中だった
そして優しいお父ちゃんにすぐに馴染んだ。
ーー本章 40年後ーー
Lは長く両親に姿を見せなかった
佑司の病が不治であると告げられたとき
Lの夫もさすがに見舞いを肯んじた
Lが父親に謝ることも感謝することも
できぬうちに別れが来た
「どうかしてくれ」
祐司がついに言った時
Lは強力な薬を強力に要求した
それだけが親孝行だとでもいうように
穏やかな死顔だった
それはよかった
しかし密かに
Lは自分が来たことを悔やんだ
Lが生まれた途端に父親はソ連に連行され
Lが帰省した途端に永遠に行った
Lが近くに引っ越して来た時
Lの弟も死んだ
Lが嫁いだ途端に夫の父親が亡くなった
Lと結婚したために夫は死病にとりつかれた
Lが執着していた長男にも去られた
Lの脳にそんな回路が強くなってきた
もしLでなければ誰のせい?
Lの回りから
愛する男が奪われていく
そうだとすれば
愛する男たちから遠去かれ!
あるいは愛を消せ!
Lの中に孤独死の脚本が生じているらしい
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