優雨

※※※






 私の指先はカタカタと震え始め、それを隠す様にしてキュッと掌を握りしめる。


 震える瞳をゆっくりと動かして夢の方を見てみると、驚きとも戸惑いとも取れる表情をしている。



「……っ……」



 そんな夢からの視線に耐え切れずに、私は夢から顔をそむけると俯いた。



「ーー夢。それでも、優雨と一緒にいたい?」


「…………」



 奏多からの質問に、何も答えようとしない夢。

 その沈黙がやけに怖くて、俯いたままギュッと固く瞼を閉じる。



「わかったら行くよ、夢」


「……っ。私……、それでも優雨ちゃんと一緒にいたい……。優雨ちゃんは……、大切な友達だから。優雨ちゃんが、それでも一緒にいてくれるって言うなら……」



 夢から発せられたその言葉に、私は俯いていた顔を上げると夢の方を見た。



「……っ……夢。本当……、に?」


「うん……っ。優雨ちゃんと一緒にいたい」



 小さく頷いた夢は、まるですがるような瞳で私を見つめてくる。



「……っうん。ありがとう、夢……っ」



 私は一緒にいたいと言ってくれた夢の言葉が嬉しくて、涙を流しながらも大きく頷いた。



「……夢は、渡さない」



 唸るような声でそう呟いた奏多は、夢の腕を引っ張ると無理矢理連れて行こうとする。



「ぃっ……ッ! 奏多くんっ……、やめてっ!」


「……っやめてよ、奏多!! 夢を離してっ!!」




ーーーガラッ




 突然開かれた扉から姿を現した養護教諭は、揉み合う私達を見て驚きの声を上げる。



「ーー!?  あなた達、何やってるの!?



 突然現れた先生に驚いたのか、奏多の動きはピタリと止まり、夢を掴む力が弱まったーー



「ーー夢っ!」



 その一瞬の隙に、夢を奏多から引き離した私は、夢の手を握ると保健室を飛び出した。

 昇降口で素早く靴を履き替えると、そのまま休むこともなく走り続ける。


 途中、何度か後ろを振り返って確認してみても、先生に捕まったのか奏多が追いかけてくることはなくーー

 無事に、夢の家の前へと辿り着いた私達。



「優雨ちゃん、ありがとう」


「私こそ……っ。ありがとう、夢」


「これからも……、友達でいてくれる?」


「……っ。そんなの当たり前でしょ? これからもよろしくね、夢」



 そう笑顔で答えれば、とても嬉しそうな笑顔を咲かせる夢。


 私の秘密を知った後でも、こうして友達でいてくれることを選んでくれた夢。

 そんな夢に、感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。



(本当にありがとう、夢……)


 

 溢れ出そうになる涙を堪えると、目の前の夢をギュッと抱きしめる。



(……あなたのことは、私が絶対に守ってあげるからーー)



「……それじゃあ、また明日ね」



 そう告げると、私達は笑顔で別れたのだった。





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