朱莉【回想】

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「……あっ、朱莉! 優雨ちゃんがね、先にテント戻ってるねって言ってたよ〜」



 トイレから出てきた私に気付いた美沙が、私に視線を向けるとニコッと微笑んだ。



「オッケ〜。わかった、ありがとう」



 そう返事を返すと、手を洗う為に手洗い場へと近付く。



「……朱莉ちゃん達は、ホントいいよね〜。涼くん達と同じ班で」


「涼くんも奏多くんも楓くんも、皆んなカッコイイもんね〜」


「うちの班なんて、健と石井と岩松だから。……超地味だよぉ」


「でもさぁ……。奏多くんてちょっと……、話し掛けにくいよね?」



 手洗い場に着くと、既にそこにいた七海と美沙がそう話し掛けてくる。



「んー……。そうかなぁ? 全然、普通に話してくれるよ?」



 手を洗いながらそう答えると、そんな私を見た美沙がニヤリと笑った。



「……それってさぁ、朱莉だからだよ。奏多くんて、他の子とはあまり話さないもん」


「あっ、それってわかるかも〜! 奏多くんて、朱莉ちゃん達の前だとよく笑ってるしね〜」


「朱莉の事……、好きなんじゃない?」



 その言葉に、思わずカッと熱が上がる。



「そっ、それはないよっ……!」



 そんな事を言って否定しながらも、『そうだったら嬉しいな……』なんて心の中で思いつつ、2人に気付かれないように小さく微笑んだのだった。










※※※










「夢……。本当に、大丈夫?」



 心配そうに夢を見つめる涼。


 虫に驚いて泣き出してしまった夢は、未だにボロボロと涙を流し続け、一向に泣き止む気配がない。



「大丈夫だよ、夢。俺がついてるから」



 そう言って夢の右手を握った奏多を見て、『いいなぁ……。奏多と手繋げて』と羨ましく思う。



「じゃあ……こっちは俺ね? ……これでもう、怖くないね?」



 楓がそう言いながら左手を握ると、躊躇ためらいがちに小さくコクリと頷いた夢。



「あと少しだから、頑張ろう。夢」



 優しい笑顔を向ける涼が、ポンポンと夢の頭を撫でてあげると、夢はポロポロと涙を流しながらも大きく頷いた。




「じゃあ、行こうか」と言う涼の言葉を合図に、再び歩き出した私達。


 暫く歩くと、奏多のことが気になった私はチラリと後ろを盗み見た。


 ーーそして、私は見てしまった。


 もう泣き止んではいるものの、相変わらずビクビクと怯えながら歩いている夢。

 その右手をしっかりと握りながら、愛おしそうに夢を見つめている奏多の姿をーー





(私じゃ、ない……。奏多が好きなのは……、夢なんだーー)






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