朱莉
※※※
「……気持ち悪い」
今朝、夢の机の中から出てきた虫を思い出して、ブルリと身体を震わせる。
(あれは悪趣味すぎる。一体、誰がやったんだろう……)
そんな事を考えながら廊下を歩いていると、前方に女とイチャつく楓の姿が見えた。
楓に擦り寄り、ワイシャツの胸元に手を忍ばせる女。
「今は、そんな気分じゃないんだよね〜。……ごめんね」
そう言いながら、女の手を掴むと退かそうとする楓。
そんな態度の楓に向かって、女は「え~。いいじゃ~ん」と鼻にかかったような甘ったるい声を出す。
「楓って、いつもコレ付けてるよね~」
「コレは、触っちゃダーメ」
「え~何で~? ……あっ。今度、お揃いの買って付けようよ~」
「……俺達、そんな関係じゃないでしょ?」
女に向かってニッコリと微笑んだ楓は、ネックレスを掴むとワイシャツの中へと戻す。
ーーすると、楓が私に気付いて目が合った。
「……お盛んな事ですねー」
抑揚のない口調でそう告げると、イチャつく2人の目の前を横切る。
「何あれ~。感じわるぅ~い」
相変わらずの甘ったるい声で女が何か言っているようだったが、私はそんな事など気にせずに立ち去ると自分の教室へと向かった。
静まりかえった教室の扉を開けると、放課後という事もあるせいなのか、やはりそこには誰一人として居らず、ガランとしている。
教室の後ろにあるロッカーの前まで行くと、私は【藍原】とシールの貼られた扉を開いた。
中からジャージを取り出すとゴミ箱の前に立ち、制服のポケットに忍ばせていたハサミを取り出してジャージを切り刻む。
「……夢が悪いんだから」
そう呟くと、切り刻んだジャージをゴミ箱の中へと捨てた。
ーーーガラッ
「ーー朱莉」
ーーー!?
突然、教室の扉が開いたのと同時に声を掛けられ、私の身体はビクリと小さく震えた。
その声の主は、私の側までやってくるとチラリとゴミ箱に視線を向ける。
「やっぱり、朱莉か……」
恐る恐る視線を上げると、そこに見えたのは無表情のまま私を見つめる奏多の姿だったーー
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