優雨【回想】


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「涼、どこ行くのー?」



 前方から聞こえてきた楓の声につられるようにして、私は足元にあった視線を前へと向けた。



「……夢のとこ!」



 笑顔でそう返事を返した涼は、そのまま私の横を通って走り去って行く。



(……あれ?)



 不思議に思った私は後ろを振り返ってみた。すると、さっきまですぐ後ろにいたはずの夢がいない。

 どこへ消えたのかと更に後ろへと目を向けてみると、夢は川辺へと続く道にまだ1人で立っていた。


 麦わら帽子を被って川の方へと身体を向けると、そのまま空へ向けて両手を広げた夢。


 風に吹かれてユラユラとなびく髪。

 太陽に照らされた肌は真っ白で。今にも消えてしまいそうな程に、儚く見える。


 気持ち良さそうに風を受ける夢の姿は、まるで空を飛ぶ天使のようでーー


 私は思わず、その光景に目を奪われてしまった。







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※※※







「夢ってさぁ〜、涼の事が好きなの?」


「……えっ?!」



 テント作りの作業中、突然朱莉が涼の話しをし始めた。


 聞いていたくなかった私は、ただ、黙々とペグを打ち込んでゆく作業を進める。

 すると突然、少し強めの風が吹いてテントがぐらついた。



「わぁー! ちょ……っ夢! 何やってんのっ!」


「あっ……。ご、ごめんね!」



 朱莉に注意された夢は、慌てて布端を掴むとまた作業へと戻る。



「……けどさー。涼は、絶対に夢の事が好きだよね〜」




ーーーカンカンカンカン




 また涼の話をし始めた朱莉に、私はただ黙って作業を続ける。



「優雨もそう思うでしょ?」



 突然話を振ってきた朱莉に、私は「……そうだね」と素っ気なく答えた。

 私が答えるまでもなく、どう見たって涼は夢の事が好きだ。



(そしてきっと、夢も……)



 私はペグを刺し終えるとチラリと夢の方を見た。

 

 中々刺さらないペグを覗き見ては、首を傾げている夢。その姿が可愛くて、私はクスリと声を漏らすと夢の元へと近付いた。



「ーー私がやるよ」



 ニッコリと微笑みながら右手を差し出せば、少し驚いたような表情をさせる夢。



「えっ。でも……」



 申し訳なさそうにして上目遣いで私を見るその姿はーー本当に、愛らしい。



「大丈夫だよ」



 そう言って優しく微笑みかけた、その時ーー

 涼が、夢の元へとやってきた。



「俺がやるよ」



 ニカッと笑った涼は、夢の手に握られたペグハンマーを取ると、そのままあっという間にペグを打ち込んでゆく。

「はい、これで終わり」とペグハンマーを夢の手に戻すと、その場を立ち去ってゆく涼。



「あっ……ありがとう!」



 そう言って小さく手を振った夢は、涼を見つめて可愛らしく微笑む。


 私は幸せそうに微笑む夢の横顔を見つめながらーー

 チクリと痛む胸を、そっと抑えた。





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