君を幸せにできなくて…ごめん~過労死を減らしたい~

ノアのロケット

〈ひとりの男性が残した後悔と願いの物語〉

 暗くて、何もない空間で、とても恐ろしい声が、木霊となって聞こえてきた。


 最初は、男性の怒鳴り声だった。


 【お前は、どうして何もできないんだ。お前は、どうして何もわからないんだ。学習してないからじゃないのか。お前は、この仕事に向いてないんじゃないか。

 お前は、しっかり目標を立てて行動しろ。お前が今、そのままだと将来いったいどうなるか、想像しながら行動しろ。お前は…お前は……お…前……は】


 次は、女性の声が聞こえてきた。


【あなた…今日は、給料日だったわよね。ちょっと見せてよ。はぁ~。なんでこんだけなのよ。子どもたちもいるのに、どうやって養っていくつもりなの。もっと頑張ってよね。

 あなた、今日、仕事が休みなら、家事を手伝ってよ。はぁ、体がだるくて動けない。そんなの言い訳でしょう。

 あなた、体調が悪いからって仕事を休むって正気。そんなの気合でなんとかしなさいよ。あなた…あなた……あ…な……た…は】 



 その声が、聞こえなくなった瞬間、部屋の中心におぼろげな光が出現する。


 その光は、悲しそう……ううん、強い後悔を感じさせるような男性の声で語りかけてくる。


 ――ねえ…君たちはさ……仕事や生活がうまくいかずに、自分の力だけでなんとかしようと…もがいたことはあるかい…でも、いくら…もがいても…もがいても…自分の力だけではどうすることもできなくなったていう経験は、あるかい?


 ――頭では、わかっているはずなんだけど、身体が自分のものじゃない感じがして、うまく動かせなくなっていくこと…

 ――頑張ろうと思えば、思うほど…将来、自分が、失敗する想像しかできなくなり、胸も苦しくなって、息ができなくなること…そして、頭も真っ白になっていって、最後は、何をするにも恐怖しか感じられなくなるんだ…


 ――僕は……あるよ。自分なりに頑張っても、頑張っても、全然…結果が、出なくて…ほんとうに辛かった。だんだん周りの目が冷たくなっていくような気がして…頭の中も真っ白になって…何も考えられなくなっていくんだ…それでも…あきらめずに僕は…頑張ったんだ…でも……最後は自分の身体さえも動かしづらくなっていったんだ…


 ――それでも、周りは、ずっと変わらない。いや…むしろ、もっと冷たくなっていくような気がする…これは自分自身の問題だから…自分自身で解決しないといけない…結果を出さなければいけない…でも、どうすればいいんだろう。ああ…今日も誰かに怒られるんだろうなぁ…ああ…今日も結局…何も結果が出せずに一日が終わっていくんだろうな…

 なんで、こんなことになってしまったのだろう…


 ――なんか…もう…疲れたなぁ…このまま永遠に眠れたらいいのに…


                  ★


 ひとつの家の前に救急車が、止まっており、救急救命士が担架に男性を乗せて運んでいる。


佐藤さとうさん、佐藤良太さとうりょうたさん…大丈夫ですか?意識は、ありますか?」


 救急救命士が、男性の肩を叩きながら、声をかけても全く反応が見られなかった。その様子を見た救急救命士は、痛みによる刺激を与えるため、男性の腕をつねる。しかし、それでも男性は、ひとつも反応を示すことは無かった。


「意識レベルJCS Ⅲ―300!極めて危険な状態です。早急な処置が、必要な状態です!」


 そのように、ひとりの救急救命士が、他の仲間に伝えたところで、救急車は発進した。



 ※JCSとは、ジャパン・コーマ・スケールの略称 意識レベルの観察項目基準


                  ★



 ピーポーピーポー 


 救急車が、【東京第一救急センター】という病院に入っていく。




 ピーーーーーーーーー


 ひとつの病室で、機械音が鳴り響いている。


 心電図モニターには、大きく0と表示され、波形には、まったく変化が見られない。看護師が、心電図モニターを操作してアラーム音を消した。


 ベッドに寝かされている男性の顔には、白い布が被せられており、ベッドの周りには、男性の家族であろうか…男性と同年齢と思われる女性と中学生ぐらいの女の子、小学生くらいの男の子が身体を寄り添い合いながら、涙を流している。


「20○○年、○月○日…ご臨終です……」


 医師が、腕時計を見ながら言った。


 医師の言葉を聞いた瞬間、家族は我慢ができなくなったのか、声をあげながら、寝かされた男性にすがりついたのであった。


「治療の甲斐もなく、ご主人様を助けられなくてすみませんでした…」


 医師と看護師は、一同に頭を下げて退出して行った。


 医師や看護師が出て行った後、部屋に残っている人物は、亡くなった男性と家族の三人しかいないはずである。しかし、半透明の男性が、悲しみと後悔を募らせたような表情で、立っていた。彼は、下を向いたまま呟いた。


「僕は…僕は…本当は、信じたくなかったんだ…だけど…やっぱり……死んでしまったんだな……家族を置いて…皆をあんなに泣かせてしまって……とても悔しいな…」


 ――彼のつぶやきに気が付いてくれる人は…もう誰もいなかった……




 悲しみに満ちた出来事から、一週間たったある日、病院の相談室で、妻と医師が向かい合わせになって話をしていた。


「ご主人様の件、ご冥福をお祈り申し上げます。今回は、ご主人様の死因について報告させていただきます。

 その前に、亡くなる直前、何か体調が優れない、体がだるい、異様に疲れるなどといったことをおっしゃられていませんでしたか…」


 妻は、心当たりがあったようで、ポツリ、ポツリと話し始める。


「はい…『この頃…何故か疲れ方が、以前より酷くなっている気がする』とか…『前まであったやる気が、無くなってきている』とか『食欲が、出ない』とか…『息苦しい…』『胃が、むかむかする…』『胸が、突然どきどきする』とか…

 でも、私は…やりたくないだけの言い訳だと思って…聞き流してしまったんです。ただの疲れだと思ったから…寝たら治るわよって、言ってしまったんです。励ますつもりで…明日も頑張れって…言ってしまったんです…」


 妻は、言い終わると、下を向いてしまった。



 医師は、少しだけ間をおいて別の質問をした。


「――そうでしたか…では……体調が優れないと、おっしゃられるようになられた以前のご主人様のご様子はいかがでしたか…」


 妻は、しゃくり上げながら、小さな声で話し始める。


「すっ…すっごく頑張り屋で…正義感や義務感の強い人でしたっ……『この仕事が…きっ…きちんとできるまでは…帰れない』っていう感じで、毎日遅くまで残ってっ…残業をしていましたっ……

 『いっぱい…働いて…家族に幸せになっ…なってもらわないとな…』っていうのが…夫の口癖でした。

 すっごく…優しくて……家族にも…よっ…よく笑いかけてくれる…そんな自慢の夫でしたっ…」


 そこで、妻は苦しくなったのか、一度、話しの中断をし、深呼吸をした後、再び話し始める。


「会社で、受けた最後の健康診断でも、特に問題がなくて…健康だったはずです…

 でも、会社が『残業0政策』を明言してから、夫に疲れが見え始めてきました。

 夫は、よく愚痴を…もらっ…漏らすようになりましたっ…『仕事量がっ…多くなっているにも関わらず、残業をすっ…すると怒られる…』『すべて時間内にきっちり終わらせろっ…なんて無理だろっ』て…辛そうに…」


 そのように言った後、妻はこらえた涙を我慢できなかったのか、ぽろぽろと涙を流し始めた。



 医師は、少しだけ間をおいて話し出す。


「――そのようなことが、あったのですね…今からご主人様の死因を報告させていただきたいのですが……奥様は、大丈夫でしょうか。ご気分が優れないようでしたら、少しお休みになられてから、お聞きになられてもよろしいですよ…」


 妻は、ポケットから持ってきたハンカチを取り出し、流した涙を拭いた後、ゆっくりと首を横に振り小さな声で答えた。


「大丈夫です…続けてください…」


 それを見た医師は一度だけ頷き、話し出す。


「ご主人様が、亡くなった直接的な病名は……心筋梗塞です…」


 妻は死因を聞いて、納得できたような顔ではなかった。


「心筋梗塞ですか…でも、夫は…自分の生活習慣には気を付けていました。タバコも吸わないし、お酒も飲みの席ぐらいでした…会社で、最後に受けた健康診断でも問題は、無かったはずです…」


「――そうですね。確かに…ご主人様は、心筋梗塞で亡くなったのですが、原因が精神的なものからきたのではないかと判断したのです。

 ご主人様は、過労死にも分類される可能性があります。ちなみに、奥様は、心身症というのをご存じでしたか」


 妻は、心身症についてピンっとこなかったようで、聞き返した。


「あの…心身症とは…いったい…どのようなものなんですか…」


 医師は、質問をされることがわかっていたようで、資料を出しながら答える。


「まず、これを見てください」


 そのように言われたため、妻が資料に目を通した。そこには、心身症が原因で発症する病気や症状がたくさん書かれていた。妻が、目を通し始めたのを確認したあと、医師は話し始めた。


「心身症とは、身体の病気なのですが、精神的なストレスが関わり、身体へ異常をもたらしたすべての症状のことを指します……ですので、人によって個人差があり、どの症状が出るかは、はっきりと断言できません。お手元の資料に書かれている内容は、心身症になった場合、どのような症状や病気が発症する可能性があるのかをまとめたものです」


 妻は、いくらか資料を目を通した後、医師に懇願をした。


「たくさん…ありますね……夫を殺した心筋梗塞も含まれています…私は………私はどのようにすれば良かったのでしょうか!どうすれば、夫を死なさずに済んだのでしょうか!確かに…先生に今更…治療法を聞いても遅いと思いますが……どうしても…どうしても、夫に謝りたいんです!…ごめんなさいって!……一番そばにいたはずなのに…ごめんなさい…気が付いてあげられなくて…助けてあげられなくてって…ごめんなさいって謝りたいんです!」


 そのように言いながら、泣きじゃくる妻を見て、医師は何と声をかければいいのかすぐに、答えは出なかったようだ。妻が泣きじゃくる間、医師も拳を握って耐えることしかできなかった。


 少しだけ時間がたち、妻の涙がおさまってきたのを見て、医師が口を動かす。


「――あなたのせいでは…ありません……そんなに自分を責めないでください…ご主人様には…きっと…その気持ちは伝わっていると思いますよ…」


 妻はそれでも首を横に振り、言い続ける。


「これは…私の気持ちなんです…どうすれば良かったのか…どうすれば…夫が死なずにすんだのか…知りたいんです…どうか…先生、教えてください…どうか…」


「わかりました…心身症についてどうすれば良かったのかをお教えします…」


 医師は、今の精神状態で妻をそのまま帰すと危ないと思ったのだろう…


「ありがとうございます」


 妻は医師に向かって頭を深く下げた。


 医師は、妻が頭を上げたのを確認した後、おもむろに口を開き、説明を始める。


「心身症はまず、過度のストレスが原因だということを認識することが始まりです。身体のあちらこちらに身体的な異常を感じ、いろいろな病院を転々とすることがあります。しかし、それでは良くなったと感じたとしても、また再発をしてしまったり、別の新しい症状が出る可能性があります。

 なぜなら、根本的な原因であるストレッサー、いわゆるストレス要因の認識や排除ができていないからです」


 ここで、医師は話を止め、妻の様子を見る…妻は真剣な様子で話を聞いている。その真剣な顔を見た後、医師は話を再開する。


「ほとんどの心身症の患者様でもあてはまるのですが、心身症になってしまった方は、自身では気が付かず、心のケアについては何も対策をせずに悪化させることが多いです。

 そこで、相手がとてつもない疲労感や、やる気が全然出ない、何も興味を示さないという言動などが、見られるようになったと感じた場合は、精神病院でもいいのですが…精神病院には、抵抗がある人が多いのが現状ですので、まずは悩みが相談できるような心の相談場所を紹介してあげることがいいかもしれません。そして、心のケアをしっかりしつつ、身体の治療もしていきます」


 医師は、少しだけ間を取り話を再開する。


「――どうにかして、何がストレッサーなのかを認識できる状態にしてあげ、軽減できる環境を作ってあげる…それが、一番だと思います。そして、意見に対しては否定をせずに、共感してあげることを心がけてあげてください。また、意見を述べるのではなく、『提案』という形をとってあげます。決して、頑張れと言ったり、意見を押し付けるようなことはしてはいけません。――これで以上ですが…何か他にわからないことはありますか…」


 医師の問いに、妻は涙をこらえながらも、真剣な顔で言う。


「いいえ、無いです。先生…長い間ご説明…ありがとう…ございました。これで…夫ときちんと…話せることが…できると…思います。ほんとうにありがとうございました」


 そう言って、妻は長く深いお辞儀をした後、部屋から出て行った。部屋を出ていく様子を見ていた医師は、何か底知れない不安を感じるのであった。


                  ★


 妻が、2階建ての家に入っていく。表札には『佐藤さとう家』と書かれている。自宅だ……


 妻は、僕の写真が飾ってある仏壇の前で手を合わせている。平日なのだろう…子どもたちは学校に行っているようで、現在、家には妻一人だけしかいないようだ…


 妻は、手を合わしながら、ぶつぶつと何かをつぶやいている。


「ごめんなさい…あなたが一人で苦しんでいるのに気が付かなくて…

 ごめんなさい…体調が悪いと言ったことを聞き流してしまって…

 ごめんなさい…いつも頑張ってたわ、あなたに対して、もっと頑張ってって、追い詰めるようなことを言ってしまって…あなたはいつも頑張ってたわ…ほんとうにありがとう…

 ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」


 僕は、そんな君を見ていられなくなった……もう…自分を責め続ける君を止めたくて…


 僕は必死に呼び掛けた。


 ――君のせいじゃないよ。君のせいじゃないから…そんなに自分を責めないで……お願いだから………


 それでも…今の僕の声は、君には届かない…僕は……僕は、ほんとうに後悔をした。一番守りたかったものを…一番大切だった自分の家族の幸せを…



 ――自分の死で壊そうとしているのだから……


 僕の声が聞こえないって…わかっていても……僕は…絶対にあきらめない…

 僕の声が届くまで…ずっと呼び続けるよ…ずっと…ずっと…ずっと…ずっと……



「あなた……」


 妻が、こっちを見て…驚いた顔をしている。


「あなたなの!どこにいるかはわからないけど…あなたの存在は、見えないけど……声が聞こえた気がするの…あなたを助けられなくて……ごめっ」


 僕は妻の声を遮って、言った。


「君のせいじゃないよ…君のせいじゃないから……だから……だから、自分を責めないでほしい。僕の方こそ…ごめんね…家族を幸せにするって約束…守れなかった…僕は、自分自身の身体のこと…自分で最後まで気が付かなかった…ごめんね…だから…おあいこにしよう…どっちも悪くて、どっちも悪くないでいいよ。だから…君は、これから先、幸せになってほしい。僕は君が自分の幸せを見つけるまで…見守り続けるから…」


 妻は、一筋の涙を流しながら、言った。


 「ありがとう…」


                   ★ 


                 〈3年後〉


                バタバタバタバタ


 「今日、早く起こしてって言ったじゃん。あ~。最悪だ~。朝練遅刻~。先輩に怒られる~。お母さん!ごめん!せっかく作ってくれたの悪いんだけど、朝ごはんパンだけでいいや。行ってきま~す」


 二階から降りてきた香帆かほは、すぐに玄関へ向かって走り抜ける。


 「ちょっと、香帆かほ、弁当忘れてるわよ。まったく。高校生になったんだから、自分で起きなさいよ。雄太ゆうたは、とっくに自分で起きてきて、『俺、今日朝練あるから。早く行くね…』って言って、中学校に行ったわよ。もっとしっかりしなさい!」


 私は、急いで娘に弁当を渡しに行く。


 「お母さん、ごめん。忘れてた。あっ…危ない、危ない…もうひとつ忘れるところだった……お父さん行ってきます……」


 そのように言った後、香帆かほは、静かにに手を合わした。


 「もう、遅刻決定だけど…きちんと謝るしかない。よし、今日も一日頑張るぞ」


 香帆かほは、元気よく家を飛び出していった。


 「まったく…今日も朝から騒がしい一日ね…さあ、私もそろそろ仕事に行かなくちゃ……」


 微笑みながら、私も、仕事へ行く準備を始めた。


                  ★


 私は、心の相談窓口という建物に入った。ここが、私の今の職場だ。


 その建物の一室で、私はひとりの男性と会話をする。男性の表情は、すごく疲れ切っていた。


 「今まで、ずっと頑張ってきましたが、仕事がうまくいかなくて…家に帰っても…家内が、頑張れー頑張れーって…正直疲れてきました…

 どうしたら、自分に自信が持てるのか…どうしたら結果が残せるのか…どうしたら認めてもらえるのか…どうしたらって考えれば考えるほど嫌な未来しか想像できなくなってしまうんです……

 もう将来のことを考えるだけで恐ろしくて…本当は自分自身で解決しなきゃいけないってわかっているんです…わかっているんですけど…自分だけではどうすればわからず…はっきり言って、もう何が何だかわかりません!」


 私は、自分ができるだけの優し気な笑みを浮かべながら、「うん、うん」と相槌を打ちながら男性の話しに耳を傾けた。そして、ゆっくりと口を開く。


 「そうですね。あなたは…ほんとうに頑張ってきました…だから、しっかり休むことも大切です。疲れきって、自分を見失いそうになったら…一旦、立ち止まって、深呼吸をしてみてください。そうしたら、見えなくなったところも、また見えるようになるかもしれません…

 でも、それでも辛かったら、また来てみてください…決して一人で解決する必要なんか無いと私は、思っています…あなたの話を聞いて、どうすればいいか一緒に考えましょう…」


 男性の顔は来た時よりも、明るくなっていた。


 「ほんとに佐藤さんって優しい人ですよね。自分の意見を押し付けないところがほんとにいいです。一緒に考えてくれるところ…気分が、ずいぶんと良くなりました。とりあえず、今日は帰ります」


 男性は、来た時よりも軽やかに帰って行った。



志穂しほちゃんが、担当した人って、ほんとうに全員嬉しそうに帰っていくよね。ほんと見ててこっちも幸せになった気分がする」


 この男性は、夫が亡くなった後、ここに勤めることになったときに同期となった田中良太たなかりょうたさん。死んだ夫と同じ名前と知ったとき、ついつい目の前で泣いてしまって、困らせてしまった人である。少し変わっているけど、とても優しい人だ。――ちなみに独身である…


 私は、夫に伝わるように念じながら、心の中でつぶやいた。


 ――良太りょうたさん…私は、決めたの。あなたのような人々を救えるような人間になりたいって…辛そうな顔をしている人たちの心を救いたいって…今回も一人…元気を取り戻せる手助けができたの…それに…同僚にも職場にも恵まれて、とっても幸せになれたわ。子ども達も心配しないで、元気でやってるから…


「――もう大丈夫だね。僕が、いなくても君は…大丈夫……」


 そんな声が聞こえた瞬間、温かい風とともに近くで、何かがふっと消えた気がした。


 「ああ…行ってしまったんだわ……」


 私は、一筋の涙を流しながら呟いた。


 「私は大丈夫。だから、あなたも………」


 最後の言葉が、あなたに届くことを祈っています……


                                  END

【あとがき】


 最後の言葉は、あえて書きませんでした。この作品を読んでくださった人はいろいろなことを考えたと思います。そのため、もしかしたら最後の一言は、読者によってバラバラになる可能性があると思いました。それも面白いかなと…

 ちなみに、私が思いついた言葉は書きません。なぜなら、それが作者の『答え』となってしまうからです。

 最後の言葉は、自分がふさわしいと思う言葉で締めくくってみてください。

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君を幸せにできなくて…ごめん~過労死を減らしたい~ ノアのロケット @gurug9uru33

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