駆け去っていく彼女。


 泣いていたのか。


 わるいことをしてしまった。最初から、告白される前に逃げるべきだったのか。いや。それよりも前。親切にするべきですら、なかったのかもしれない。


 心のじんじんする感触。すでになくなっている。


「こんなものか」


 好きでもない人間との初恋は。


 終わった。


「いや。違うな」


 好きだったからこそ、振られて心がいたむのかもしれない。


「まあ、しかたないか」


 仕事柄、そういう色恋沙汰をどうこうできるわけてもない。


 彼女はアンドロイドで。


 自分は人間。


 俺が作る側で。


 彼女は作られる側。


 この差は、永遠に埋まらない。


 それでも。


「くそっ」


 走り出した。


 やっぱり。


 だめか。


 彼女。


 こちらを向く目が。表情が。


「うおっ」


 彼女。突っ込んできた。支えきれず。倒れる。


 視界。


「やっぱり好き。好きです。わたし。好きです。あなたのことが」


「俺もだ」


 突き抜けるような、青空。

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