第21話 雑賀からエリへのメール

 夜九時三十分。

 予備校の授業が終わり、雑賀と更科は駅へと歩いていた。

 盛り上がってきた居酒屋を横目に、明るい繁華街をまっすぐに突っきって行く。


「あー、疲れだー」

 更科が雑賀の両肩に手を当てて、体重をかけた。

「俺はなんだか肩が重い」

「あー、なんかかばんの中、光ってるよ」 

 雑賀の布製の肩掛けバッグ中で点滅する光を見つけた。雑賀は「携帯かな」とバッグから携帯を取り出した。


「メールだ」

「誰から?」

「エリちゃん」

「愛してるって?」

「天文部に新入部員だってさ」

「男?」

「明日、連れて行きますだってさ」

 

 更科は雑賀から携帯を奪って、画面に目を凝らした。

「なんだこれ。ただの業務連絡じゃん」

「誰かさんのシモいメールの百倍いい」

「あー、じれったい」

 更科は新規メールを打ち込んで送信する。


「ちょっと、何してるんですかお兄さん」

「ふへへ。『エリちゃんに今すぐ会いたい! エリちゃん大好き(はあと)』って送っといてやったよ。お兄さんが照れ屋の雑賀くんの気持ちを代弁してあげましたとさ」

 更科の笑みは、完全に近くを歩く酔っ払いのそれと等しかった。


「ふざけるなっ! 返せって」

 更科から携帯をもぎ取って、送信履歴を確認する。

「……嘘だろ」

 雑賀は血の気が引いていくのを感じた。自分が送信していないとはいえ、自分の携帯の画面で更科作成の文を見ると、吐き気さえしてきたのだ。


「そういえば明日は部活だな」

 わざとらしく更科は言う。

「どうしてくれるんだ。これじゃ、ただのセクハラだ」

「大丈夫だって! どう見たってお前ら両想いなんだから」

「エリちゃんはお前みたいな下種妄想野郎が汚していい人間じゃないんだぞ。おい、分かってるとは思うけど、エリちゃんの前では絶対にこういう話するなよ?」

 滅多にない雑賀の鋭い目つきに、更科は思わず身じろいだ。雑賀の底に燃えた憤怒の表情は、周囲の気温を二度ほど下げる迫力がある。


「……そんなに怒るなよ。エリは絶対に俺だって気づくよ」

「もういい。後でお詫びのメールをいれとくから」

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