第15話 天文部副部長の更科秋人

 天文部の活動日は月曜日と火曜日と木曜日の、週に三日。

 つまり今日、水曜日は定休日だ。

 

 朝起きてからカレンダーを見たときに、今日が水曜日であるとわかると、エリは月曜の朝と同じ気分になってしまった。

 そして、今日の放課後は補修講座があることも思い出すと、さらにエリの体は重くなった。

 

 東光学院は国公立大学や難関私立大学への進学率が高く、県内でも有数の進学校と言われている。朝補修や放課後演習など、授業時間以外での講座が数多くあるため、学ぼうという意志のある生徒は、より高みを目指すことができる。

 また、東光学院は進学校である反面、部活動が盛んな学校としても知られているため、それに青春をささげる生徒も多い。

 

 だが、エリは東光学院に奇跡的に合格したようなものであるため、日々の授業についていくことにも苦労する。とても部活に多大なる時間を費やしてはいられない。

 だからこそ、活動日数が少なく、かつゆったりとした天文部に入部したのだ。雑賀が勉強を教えてくれることも、今では天文部にいるメリットとなった。

 エリは今のところ、補修講座と予備校を駆使して、「まだ救いようのある底辺」を維持している。

 底辺を維持することも、一苦労である。


 放課後、補修講座が行われる教室へ移動する際、エリは天文部副部長の更科秋人に遭遇した。

「やっほー、エリ! 明日は部活だね」

 サッカー部で日焼けした肌が半そでから露出している。更科だけ、周りの人と季節が違うのだ。


「……今日は部活がない、とも言えますよね」

「エリは天文部が好きなのかな? それとも俺のことが好きなのかな?」

 冗談でもよくそんなセリフが言えるなあ、とエリは感心しつつ、適当にあしらった。

「秋人センパイは木曜限定キャラじゃないですか。好きも何も、ありませんよ」

 更科はサッカー部と兼部しているので、サッカー部が休みである木曜日のみ、天文部の活動に参加する。


「エリからすればそうかもしれないけど、俺は週三日きっちり会っているような感覚なんだなー」

「保健室行ったほうがいいんじゃないですか?」

「あっはは! たぶん、グラウンドから部室の中が見えるから、俺も一緒にいる気になるんだと思う」

「はあ。そんなに見えるものなんですかね」

 

 エリは、グラウンドから東校舎二階の部室までの距離を推測した。一番近い場所で、ざっと五十メートルほどだろうか。

「見えるよー。この前、雑賀と二人でいたとことか、もうバッチリ」

「センパイ、真面目にサッカーやってますか?」

「もち! 俺、心配だったんだよ? 雑賀がエリに何かしないかって。お兄ちゃん、エリになにかあったら泣いちゃう!」

 両手で泣いているモーションをする更科にエリは呆れた。


「秋人センパイじゃないんですし、大丈夫ですよ」

「普通そうに見える奴が一番、ヤバいんだってー」

「はいはい。分かりました、サヨウナラ」

 おざなりに浅くお辞儀をして、エリは退場した。

 更科にレッドカードを出すよりもさっさと自分が退場したほうが、手間が省けるからだ。


「またねー!」と更科の大きな声が聞こえたので、「部活、ファイトでーす!」とエリはエールを送った。

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