第11話 翌日のエリと詰襟2
エリの表情はこわばっていた。それは寒さによるものではなかった。
対照的に、雑賀は生き生きとした顔をしていた。
「お久しぶり、受験生ちゃん」
雑賀はここぞとばかりにケラケラ笑っている。とても、学年一位の秀才の笑い方ではなかった。
エリはあの日のことを必死で思い出してみた。蛍光色のティッシュ配りの人を。
「……お久しぶりです、ティッシュ配りのお兄さん」
今のエリと雑賀の距離はあの日と同じだった。そして、二人の身長差も、あの日とほとんどおなじだった。
「やっぱりそうだよね!」
「何でいままで言ってくれなかったんですか? というか、どうしてあんなとこでティッシュ配ってたんですか?」
「んー、その、ちょっと受験生の様子でも見てみようかなと思って、駅でティッシュ配るバイトをしてたんだ。結構、面白かったよ? 色々なドラマがあって……」
呆然としているエリの反応を見て、明らかに雑賀は楽しんでいる。
おそらく、この日のために今まであたためておいた話題なのだろう、とエリは思うしかなかった。
「じゃあ、私の醜態はあんなに早くに、もう、すでに、見られていたんですね」
「醜態だなんてことはないよ。あー、この子は東光に行きたいんだなーって。感動していたんだ。やっぱり、自分の通ってる学校に憧れてくれるっていうのは嬉しいでしょ?」
「でも、どうして私が東光の受験生だってわかったんですか? 別に最寄り駅じゃなかったし」
「誰の目にも明らかだったよ。だって、かばんについていた、手作りのお守りに『東光合格!』って縫ってあったからね」
そのお守りはエリの母の手製である。あの日、他の人からもそのように見えていたのかと思うと、エリはいまさらながら、とても恥ずかしくなってきた。
「……じゃあ、入学式の日、部活動勧誘で私に声をかけたのも、そういうことだったんですね?」
「そういうことだね。まさかまた会えるとは思わなかったよ」
「それって私が落ちそうって思ってたってことですか?」
少しいやみっぽく言った。
「まさか! そうじゃなくて――」
朝のホームルームの予鈴が鳴った。
「センパイ、とにかく、学ランありがとうございました! では! また放課後にっ!」そう言いながら、エリは自分の教室へと大急ぎで戻った。
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