恋の虹

七瀬モカᕱ⑅ᕱ

傘と虹

 図書館からのいつもの帰り道、いつもの風景......。でも今日は、いつもと違うことが一つだけある。


「うわっ!傘忘れた!」

 そう、今日は雨なのだ。家を出る前にしっかり天気予報も見ておいたのに....傘を忘れたことに気づかなかった。


「はぁ〜あ、どうしよ。」

 私が困っていると、『ん』差し出された傘。声に驚いて声のする方を見ると、見慣れた顔。


「ないなら使えば?」


「なんだ、晴人はると君じゃん。」

 素っ気なく返したけど、本当は嬉しくてたまらない。だけど晴人くんには、私の本心は分からないみたいで........。


「なんだってなんだよ。困ってると思ったから、貸そうと思ったのに。」


「それは嬉しいけど、晴人君が濡れちゃうよ?」

 遠慮しているフリをして、ただただ話を引き延ばす。

 もっと一緒にいたいなんて、直接伝えるのは恥ずかしくてできないから.....せめてもの悪あがき。


「俺は別にいいよ。バス乗ればすぐだし。」


 あぁ、今日こそはと思っていたのに......。私の作戦はいつも失敗で終わる。


 嫌だ、いつもと同じなんて絶対に。

 私は静かに、深呼吸をする。


「じゃあさ.......私もバスに乗りたいから、バス停のところまで一緒に入れてってよ。」

 私がそう言うと、晴人君は驚いたような顔をしていた。

 いつもならお小遣いがもったいないからと絶対に使わないバスだけれど、今日だけは....と自分を甘やかす。


「たまにはいいよね......?」


「ん?なんか言った?」


「んーん?こっちの話。」


『ほら、行くの?行かないの?』なんて、ちょっと迷惑そうに催促されてしまったけれど今はそんなことどうでもいい。ただただ、晴人君と居られる時間が増えたことが嬉しかった。


 ✱✱✱


 バス停に着くまで間、私たちは何も話さなかった。

 いや、話せなかったんだ。話せなかったのは、私だけかもしれないけれど。

 何を話そうか.....なんて考えているうちにバス停に着いてしまった。


「あ.......、傘......ありがと.......。」


「いーえ、大丈夫だった?」


「うん、全然濡れなかった。ありがとう!」

 普段はクールな感じなのに、時々こうやって心配してくれたりする。そんなところにもキュンとしてしまう。


「俺早い方のばすにのるけど.......よかったらそれ.......。」


「ん?」


「使えって言ってんの、、!わかんないの??」

 そう言った晴人君の頬が、少しだけ赤いような気がしたけれど......それはきっと、私が浮かれているせいだ。


 しばらく待っていると、晴人君が乗るバスがやってきた。


「あの、これ本当に........」

 いいの? と聞こうとしたけれど、晴人君がその言葉を遮った。


「いいから、今度図書館に来た時に.....傘立ての所にでも刺しといて。」


「うん。わかった。」

 晴人君がバスに乗り込む。そして私は彼に向って手を振った。バスがだんだん小さくなって、やがて見えなくなった。


 バスを見送って少したった頃、雨が上がっていた。

 私はなんとなく、空を見上げた。


「あっ..........!」

 空に虹がかかっていた。

 虹がかかったのはこの空だけじゃない。私の心にも綺麗な虹がかかっているような、そんな気分。


「そうだ!」

 私はポケットからスマホを出して、写真を撮った。晴人君にもみせたかったから。

 今日は緊張して、あまり話せなかったけれど...これからたくさん話せるようになって、色んなことが知りたいと思った。

 まだ、『好き』を伝えられるのは先かもしれないけれど......気持ちを伝えられるまでゆっくりゆっくり楽しみたい。




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