夜のおじさん

 何年か前の仕事帰り。

 電車に乗り吊革をつかんで立っていたところ、少し離れた場所に同じく吊革をつかんで立っているおじさんがいた。


 何気なくおじさんの顔を見てギョッとした。

 顔の右側のこめかみから頬にかけて、乾いた血でべっとり染まっていたのだ。


 事件でもあったのかとヒヤヒヤしたが、よく見たらおじさんはとても幸せそうな笑みを浮かべて気持ち良さそうにすやすやと眠っていた。

 そして次第に吊革にぶら下がったまま体をグラグラ揺らし始め、周囲の乗客から遠巻きにされていた。


 私の頭の中には、おじさんが酔っ払った勢いでどこかで転んで流血し、泥酔状態のまま電車に乗り込んだ―――というストーリーが出来上がり、助けは必要ないという結論に至ったが、お酒の飲み過ぎは怖いという事を改めて思い知らされた出来事だった。

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