朝日に照らされて
裏口から校舎を出ると、ムジナの姿は1体も見えなかった。
「ラッキーだね、哲也君」
「さっき表で車の音が聞こえたからな、そっちに集まっているんだろ」
道は危険だから森の中を進むぞ、と哲也は森の中に入る。
夜の森をゆっくりと進むと、やがて月明りに照らされた石像が見えてきた。幸運にも、ここまでは1体もムジナに遭遇していない。
しかし、
「止まれ」
先を歩いていた哲也が小さな声で呟く。石像の周囲には、石像を守るようにムジナが集まっていた。
「どうしよう、哲也君」
「あれだけ守るように立っているんだ。きっと石像があいつらの弱点なんだろ」
哲也は考え込むように首を傾げると、首から下げたムジナ避けを外し、祐樹の手に押し付けた。
「俺が引き付ける。祐樹、石像の方は任せた」
「え?」
祐樹が何か言う間もなく、哲也は駆けだす。
「こっちだぞ! ムジナ!」
その声に反応したのか、石像の周囲にいたムジナが一斉に哲也を追う。
祐樹は震える脚に力を込め、ゆっくりと石像に近づいていく。早くしなきゃ、と焦れば焦るほど、足は地面を捉えることができない。
それでもなんとか石像の前にたどり着くと、袋からムジナ避けを取り出し、左右の手に一つずつ握りしめる。ムジナ避けは、これまでにないほど熱くなっていた。
その時、石像の胴体の部分から、白い煙がゆっくりと湧き出てくる。
「ひっ!」
思わず後ずさりした祐樹は、何かに足を取られ、その場に倒れこんだ。白い何かは新たなムジナとなり、祐樹を見下ろすように立ち上がる。祐樹は地面に倒れこんだまま必死に手足を動かし、ムジナから離れていく。
「祐樹、逃げるな!」
しかし、森の奥から聞こえてきた哲也の声が壁となり、哲也の背中を支えた。
今、哲也はムジナに追われている。祐樹の前に1体のムジナしかいないのは、哲也が他のムジナを引き付けているからだ。
哲也がムジナを引き付ける役目を担ったのは、責任感と、
「僕なら、僕ならできるって信じていてくれるからだ!」
祐樹は一呼吸の間に立ち上がると、ムジナに向かって走りだす。
ムジナは半透明な手を祐樹に向かってぼんやりと伸ばす。
「うわぁ!」
祐樹はムジナの手の下に滑り込むように体をねじ込むと、その勢いのまま、両手のムジナ避けを叩きつける。
その瞬間、石像から大きな悲鳴のような音が鳴り響いた。同時に徹夜に手を伸ばしていたムジナが煙となって消え去る。
「や、ったの、かな?」
祐樹は周囲を見渡すと、ゆっくりと道の方に進んでいく。
数分歩くと、いつもの朝日に照らされたいつもの通学路が見えてきた。
「祐樹!」
通学路では、哲也が大きく手を振っていた。体中に泥や葉っぱがこびり付き、頬には大きな引っ掻き傷もできている。
「ムジナは?」
「いなくなった!」
祐樹と哲也は拳を合わせると、その場にへたり込む。
二人の視線の先では、地平線から朝日が顔を出していた。
森の中で ゆーり @yuri5858
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