第2話 この上ない生命力

 「どうしたんだい。浮かない顔をしてさ」農耕部門課長のきつねが畑に立ち尽くすきつねを見つけて話し掛ける。


 「課長。いやね。新しい葡萄の品種を育てているんですがあまり上手く育たなくて。気候は悪くないんですが、土の具合がイマイチなのかなと」


「うーむ。それならあれがいいかも知れんな。どんな作物にも合う堆肥がある」課長は最近読んだ本が思い当たった。それを自分の知識の様にひけらかす。


 「何ですか?」


「不死鳥のフンだよ。生命力に溢れていて、撒けば瞬く間に土が活力にみなぎるらしい」


「本当ですか!それがあれば他の難しい作物にも使えますね!」


 「うむうむ」課長は得意気だ。


 「どこに行けば手に入るのでしょうか」


「ん?」


「いや」


 「そこまで甘えるかね。それくらい自分で探したまえ!」課長は不機嫌に立ち去った。


 社員は事務所に帰り、他のきつね達と共に不死鳥について調べた。きつねの1匹がゲリュオン火山に住まう不死鳥の噂を聞いた事があり、火山について総出で調べた。


 島の小さな図書館にゲリュオン火山についての記述があった。


 " その鳥、不死身にして火の中から出ずる。そして死する時も火の中で灰となり、また灰から新しき血肉を受胎せん "


「ふむふむ」


「つまりは」


「不死身なのか」


「聖獣らしいな」


「聖獣のフンなぞ取ってバチが当たらんか」


「しかし、我々に選択の余地があるか」


「ないな」


「なかろう」


農耕部門のきつね達は羊皮紙の出張届を出して船に乗り込んだ。


 農耕部のきつねに加えて、海洋部、未開地開発部、危機管理部のきつねを加え、20匹が集まった。他部門応援は社内で推奨されているし、この類の仕事は皆行きたがる。声を掛ければもっとついて来ただろう。


 火山までは2日の距離だった。大陸を回り込むと海からも噴煙が見える程海に近い。


 きつね達はほど近い岸に上陸し、早速火山を登り始めた。


 「フンなぞ落ちておらんじゃないか」


「もっと進まねばならんのか」


火山は酷い暑さで草木一本生えていない。溶岩こそ流れ出てはいないが地面の土が消炭みたいで熱く、きつね達の肉球が火傷しそうにヒリヒリした。珍しく始終皆二足歩行していた。


 「あれは何だ」農耕部のきつねが何かを見つけた。皆が近寄って見てみると、溶けた岩が窪んでおり、そこには真っ赤な羽が散乱していた。


 「不死鳥の寝床だな」


「大きな寝床だ。不死鳥はかなりでかいぞ」その窪みはきつね5匹は優に入りそうだった。


 「何だ」


「翼だ。翼の音がする」


 「あれを見ろ!いや見るな。走れ」巨大な影がきつね達の真上を通過した。影の主の嘶きが火山全体にこだまする。それは耳をつんざく様な鳴き声で、地面を震わせて、火山が共鳴しているみたいだった。


 神々しい輝きに満ちていた。眩しい炎にも似た羽色の巨大な姿が天空に現れ、閃空する度に熱風が巻き起こる。それはきつね達の体毛をたなびかせ、まともに立てやしない程。長い嘴や首は優雅だが、毛のない頭はどこかハゲタカを思わせる。


 たじろぐきつね達からやや離れた場所に何かが落ちた。白い塊が地面に弾けて、滴を撒き散らして弾けた。


 「フンだ!」


「かき集めろ!」


「注意をそらせろ」数匹のきつねはわざと視界に入り、急いで分身を作り出す。


 「うわあああ」不死鳥の口が開いたかと思うと、灼熱の吐息が噴き出した。


 「火の息ファイアブレスだー」


 きつねの尻尾が焼けた。皆が急いで消化する。


 「またしそうだ」


「どっちだ」


「フンだ」


「受け止めろ」


 かくして命からがら逃げたきつね達は自慢の毛を焼きながらも不死鳥の生命力を手に入れた。この年のワインは売れに売れた。


 


 

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いなり総合商社奮闘記 一家郎等生まれながらにして社員 〜きつね・さーが〜 山野陽平 @youhei5962

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