未来予測装置
「ついにできたぞ」
ここは小さな研究所。博士が喜びの声を上げた。作業を手伝っていたが、何を作っているのかは知らされていない助手の青年は、完成した、手のひらサイズの小さな箱型装置の正体を見破ろうとしばらく見つめたが、やはりわからないようで首を傾げた。青年は尋ねた。
「これはなんです」
博士は、少年が秘密を心の内に隠し持っているときに見せるような、純粋さと少しの不健全さを含んだ笑みを浮かべて答えた。
「もし、コンマ一秒後に起きる出来事を完璧に予測出来たら、どうなると思う」
「どうもしませんよ。全く持って何の役にもたちません。予想結果を知る前に、もうそのコンマ一秒後は、とっくに過去になっていますから」
博士は箱型装置を手の上で転がしながら、しばらくもったいぶるように遠くを見つめた。そのあと、博士は話し始めた。
「これは、コンマ一秒後の出来事を完璧に予想する装置なのだ」
助手の青年は肩をすくめた。
「それは凄いことですが、何の役に立つのです。今まで、革新的ではあるけれど、全く持って売れない装置ばかりを作ってきたばっかりに、わが研究所の研究費用はとっくに底をついています。今回こそは、売れる装置を作ると約束したではありませんか」
博士は笑みを浮かべた。その笑みは、恋人に用意したサプライズに対して、彼女がどんな反応を見せるか想像したときの青年のような、いたずらっぽさを含んでいた。
「コンマ一秒後が完璧に予測できるということは、さらにそのコンマ一秒後も予測できるということだ。つまり、この装置を永遠につなげれば、一分先、いや、一年、十年先をも予測することが可能ということなのだ」
青年は呆気にとられた。開いた口をふさぐこともできないほど驚いた後、感嘆とした様子で言った。
「それは凄い。まさに求めていたものではありませんか。未来予測装置、それさえあれば、残りの人生、莫大な富を築き、遊んで暮らせますよ」
博士は笑って応えた。
次の日の朝。助手の青年が研究所に出勤すると、研究室の机の上が綺麗になっていた。それだけではない。あの未来予測装置もないのだ。机に向かって何やら設計図を描いている博士に尋ねる。
「未来予測装置はどこにやったのです。さっそくあれを大量生産しましょうよ」
「捨てたよ」
青年はあまりの驚きに、声を上ずらせて聞いた。
「なんですって。なぜです」
博士は黙々と夢中に設計書を描き続けている。彼はその丸めた背中を青年に向けたまま話した。
「昨日の夜、我慢できずにひとりであの装置を大量に作り、一年先の未来まで見てみた。確かに金持ちになっていたが、それだけだった。わしは何もかもあの装置に頼り切りで、生気を失っていた。金儲けに目のない連中がまとわりつくようにもなっていた。すべてはあの装置が元で起きた出来事だ。だから捨てたのだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます