高度な文明

 都会の狭い空。浮かぶ雲より高いところに、その飛行物体は突如として現れた。ゆっくりと回転しながら同じ場所にとどまり続ける様子は、異様な不気味さがあった。人々はすぐにどこか遠くに避難し、軍隊とメディアだけが街に残った。

 下手に攻撃して手痛い反撃をくらうのは嫌だったので、とりあえずコンタクトを取ることにした。メッセージを乗せた電波が飛行物体に向けて送られた。

『もしこのメッセージを受け取りましたら、ご返事をください。どうか、我々と友好的な関係を築きましょう』

 すると、返事が返ってきた。それも、誰もが驚くような方法で。脳内に直接返事が来たのだ。

『ええ、私もそのつもりであります。どうか仲良くしてください』

 続けて、地球に住む人すべての心に直接、宇宙人から次のようなメッセージが届けられた。

『遥か遠い銀河系のひとつから、ここ地球に参りました、ザバ星人でございます。皆さま、どうぞよろしくお願いします』

 ザバ星人は人々から歓迎を持って迎えられた。しかし、その中でも最も彼を歓迎したのは、学者の類の人々だった。彼らはザバ星人から、膨大すぎる距離を短時間で渡航する技術、遥か遠くの宇宙の様子、またザバ星の高度に発達した様々な技術について知りたがった。ザバ星人は快くそれを教えてくれた。しかし、そのほとんどすべては、あまりに高度すぎる内容であったため、一割も理解できた者はいなかった。

 やがて、学者でさえも、彼の話す結論だけに耳を傾けるようになった。例えば、こんな様子で。

『人類の体の構造を調べた結果、あなたがたは一日四食にしたほうがいい。その方が病気のリスクも低く、元気で健康に暮らせます』

 なぜか、と理由を聞くと、非常に高レベルで人類には理解しがたい理論が脳内に溢れかえるように流れ込むのだった。すぐに人々は、「理由は結構です」と言い、彼の言うとおりにするのだった。

 ザバ星人が地球に来てから、しばらくたった。地球の文明はかなりレベルがあがった。至るところで彼の知識が役に立ち、その知能の高さに驚かされるばかりだった。

 しかしその一方、肥満率が高まったり、健康を害する人が多くなったりした。それは明らかにザバ星人が地球にやってきてからのことだった。人々は、ザバ星人のもたらした文明の高さが利便性を高めすぎ、そのような結果になったのかなと思った。ザバ星人は相変わらず改善策を提示し続けてくれるので、人々はありがたくそれらを受け取った。

『タバコはかなり体によさそうです。みなさん、ぜひ食後にでも吸いなさい』

 こうして、喫煙者が爆発的に増加した。

『走ることで体にいい影響もたくさんありますが、悪い影響の方が無視できないでしょう。ランニングは控えなさい』

 ランニングする人々が極端に減った。マラソン大会の数も相当減った。

 そんな風に、彼の言うとおりに人々の生活は変わっていった。

 ある日。またもや飛行物体が都会の空に出現した。新しく来た飛行物体は、ザバ星人の乗った飛行物体の隣に近づいていくと、ネットを発射しザバ星人の乗った飛行物体を捕まえた。ネットに捕獲されたザバ星人の乗る飛行物体は、ぶらぶらと振り子のように揺れて力なかった。

 人々の脳内に、新しく出現した飛行物体から、次のような言葉が届けられた。

『おそらく、彼はあなた方に様々なアドバイスをくれたことでしょう。すぐにそれを忘れるべきです。彼がもたらした文明は本物ですが、彼自身によるアドバイスは偽物です。彼個人の学者としてのレベルは、まだまだ未熟ですから。……ご迷惑おかけしました』

 飛行物体は勢いよく回転を始めたと思ったら、一瞬で消えた。人々は自分の太った体、具合の悪い体調に今一度気づき、理論と経験、そして自分の頭で考えること。そのどれも欠けてはならないことを悟った。

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