永遠の命

 時が経ち、何世紀か後の未来。その時代における誰もが、永遠に生きる権利を持っていた。ずっと考え続けられてきた技術が実現したのだ。

 それは至ってシンプルな方法だった。髪の毛を一本保存しておき、事故か病気かで死んだとき、その髪の毛からクローン人間を作り、生き返せるのだ。はじめは誰もがこの技術を敬遠した。生命の理に反した行為で、まったくふざけていると。しかし、ある国でクローン技術が合法になると、誰もが永遠の命というすばらしさに魅了され、今では世界中の誰もが永遠に生きることを選ぶようになった。

 この技術の普及は、予想していなかった現象を生み出した。事故で足を失った青年は安楽死を選び、クローン技術によって五体満足で復活した。不治の病にかかった女も安楽死を選び、健康体で復活した。また、人々はある程度歳を重ねると自ら安楽死を選び、二十代の若者として復活した。

 こんな具合だから、誰もが若く、健康で、活き活きとしていた。しかし、その男だけは違った。全身皺だらけで、体は思うように動かなかった。持病もたくさん持っていた。

 男は四十年前、永遠に生きる権利を放棄した。それはある権利を手に入れるためだった。子を産む権利だ。

 この時代では、永遠に生きる者は子を産んではならない。人口が一気に爆発してしまうからだ。子を産むには、自分が死ななければならない。しかし、永遠の命のうまみを知った人々にとって死ぬことはあまりに恐ろしく、誰も子供を産まなくなってしまった。

 男は今、彼の他に誰も入院していない病院、その一室の広いベッドに横になっている。息が小さく、もう先は長くない。近くには二十歳を繰り返す娘が座っている。彼女の目の色から、父のことをまるで宇宙人かのように感じていることが伺えた。死を選ぶなど、正気の沙汰ではない。こんな皺だらけになりたくないと。

 死の手前、男は思う。子を産むことを選んでよかったと。自分そっくりのクローンを作るより、娘が生まれてきてくれてよかったと。そう心から思った。

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