新しい社会

 午前九時。彼は勤め先の会社に出社する。出勤の朝というと、どこか憂鬱な気分を持ち合わせるものだが、彼の場合違った。いや、この時代における誰もが、晴れ晴れと素晴らしく陽気な気分で出社していた。

 技術と文明の発展により、人は働かなくてもよくなった。労働作業はロボットがやり、頭の使う仕事もまた、ロボットがするようになった。つまり、人間の出る幕がなくなったのである。しかし、人々は相変わらず形だけでも会社に出社し続けた。

 そして出社した人々は何をするかと言うと、好きなことをするのである。ある者はずっとパソコンに向かってゲームをしているし、ある者は窓際に置かれたピンポン台でピンポンをしていた。またある者は外で皆とバスケをし、ある者は同僚との会話を楽しんだ。まさに楽園。これで給料が発生するのである。

 午後五時。人々はまだ会社にいたい気持ちを抑え、それぞれ別れを交わし自宅の帰路についた。誰もが少年の心を持ち、明日また会社に行くことを楽しみにしている。

 午後六時。その男は自宅についた。

「ただいま」

「おかえりなさいませ。早速ですが、メンテナンスをお願いします」

 家に帰ると、働いて油まみれになったロボットが男を出迎える。男はため息をつく。これから彼はロボットの全身をふいてやり、配線や電子部品の交換を行ってやらないといけないのだ。それは中々骨が折れる作業だ。でも自分の代わりに働いてくれているのだから、文句は言えない。しかし、家に帰るときはいつも憂鬱な気分になる。できることならずっと会社にいたいものだ。

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