計画的な犯行
スリルほど人生を華やかにしてくれるものはない。俺は今日と言う日を心待ちにしていた。体を巡る血という血が躍るように沸き上がり、心は子供時代を思い出す純粋な喜びでいっぱいだった。
今は人々が寝静まった真夜中。俺は十年かけて作り上げた犯行計画を実行に移す。腕時計に目をやる。二時三十九分五十七秒。三、二、一……。
俺は頑丈なロープの一端に自分にまきつけ、もう一端を手すりにしっかりと結びつける。そしてロープに身を任せ、壁伝いに最上階六階にある社長室の窓の前まで寄り、慎重に侵入する。今頃、仲間二人は事前に入手したマスターキーを使って裏口から入り込んでいる。お互いの位置はスマホを通して把握しあっている。今のところ順調だ。
二時四十二分三十秒。仲間は今警備室に入り込み、セキュリティ解除の準備を整える。俺は社長のデスクに置かれたパソコンを起動、ハッキングし、会社のネットワークシステムに入り込む。
二時四十三分二十秒。俺はネットワークから会社のセキュリティシステムを弱体化させ、それによって仲間が警備室から直接セキュリティをダウンさせる。計画通り。
二時四十四分ちょうど。仲間たちは二階から順に上がっていき、余すことなく金庫の鍵部分に爆薬を取り付けていく。俺も同じように階を降りながら、すべての鍵穴という鍵穴に爆薬をセットする。
二時四十七分二十秒。四階で仲間と合流する。すべて計画通り。これからそれぞれ違う階で待機し、爆薬を一気に爆発させ、金庫から金、重要書類などすべて奪う。爆音で通報があっても、ここまで警察が来るまで逃げる時間は十分ある。仲間はそう思っている。
二時四十八分五十七秒。俺は六階、仲間二人はそれぞれ四階、二階で爆発により金庫が開くのを待つ。三、二、一……。
二時四十九分ちょうど。一斉にすべての階に設置された爆薬が爆発する。俺たちは一斉に金庫の中を物色する。いや、実をいうと俺は金庫の中を物色することはしなかった。目の前に置かれた、爆発により扉が開いた金庫からは、大量の札束が見えている。しかし、俺はそんなものに興味はない。
二時四十九分五十七秒。三、二、一……。
二時五十分ちょうど。突然ビル全体が周囲からの眩しい光で照らされ、警察が押し寄せてくる。ずっとビルの周りを警察が包囲していたのだ。これもあらかじめ俺が通報しておいたからだ。二階、四階で金庫を物色していた仲間たちは突然のことに放心状態にでもなっているだろう。
二時五十分四十九秒。下の階から警察隊の足音が聞こえてくる。これは計画で見積もっていた時間より大分早いが、問題はない。俺は警察に立ち向かう。スイッチを押し、五階に設置しておいた閃光弾を爆発させ、彼らの目を眩ます。そして担いでいた大砲のような形をした武器を手に取る。これは引き金を引くとネットが飛び出し、狙った獲物を捕獲するものだ。
二時五十分五十五秒。あまり時間は残されていない。俺はすぐに目がくらみ朦朧としている警察隊のいる五階にかけより、無我夢中で彼らをネットで捕獲しまくった。一人、二人、三人と……。
二時五十六分三十秒。警察官を二十人ネットで捕まえたところで、俺は取り押さえられた。しかし俺は喜びでいっぱいだった。全て計画通りに事が進んだからだ。
俺は判決十年くらいの罪を計画し、実行することが趣味なのだ。そして、捕まった十年、牢屋の中で次の遊びを考える。今回はビルに入り込み、駆け付けてきた警官を二十人以上ネットで捕獲するというものだった。目標は見事に達成されたわけだ。計画を実行に移すその日も楽しいが、遊びの計画を考える十年もまた、俺にとっては最高に楽しい時間なのだ。
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