セキュリティバッジ

 文明がいくらか進歩した未来。生活は今以上に便利になったが、悪いことをする輩はいつの時代も存在するものである。また、文明が進歩した分、悪い輩が行う犯罪はより凶悪で、脅威となるものになってしまった。そんな中、悪に立ち向かうべく、ひとつのサービスが誕生した。セキュリティバッジと呼ばれるものである。

 このバッジはネットとつながっており、リアルタイムで周囲の状況を記録し続けている。そしてバッジが危険を察知すると、すぐに危険信号がネットに乗って周囲に拡散される。しかしセキュリティバッジはそれだけでは終わらない。このバッジには高度な知性をもつ人口知能が搭載されており、状況に合わせて適切な役割を果たすのだ。犯罪者が襲い掛かってきたとき、バッジの中心に小さく開けられた穴から強力な催涙弾が相手めがけて発射される。深夜盗人が現れた時、大きな警告音が発せられ、爆弾を見つけた時、バッジから爆弾めがけて冷凍ガスが発せられる。さらに、どのような状況においても、セキュリティバッジは人工音声で適切なアドバイスをくれる。

 やがてセキュリティバッジは犯罪だけでなく、他の事柄に対しても対応するようになっていった。例えば事故。激しい衝突にはバッジからエアバッグが身を守り、高いところから落ちてしまっても、バッジからパラシュートが出るため安全だった。心停止が起きた時、バッジから心臓に向けて電気ショックと強心剤が発射され、蘇生までできるようになった。

 ある日、戦争中のA国の軍事部が、このセキュリティバッジに興味を持った。戦争に使えると思ったのである。A国はセキュリティバッジを大量に購入し、兵士に装備させた。するとA国の兵士は凄まじい強さを発揮した。セキュリティバッジは主人を守ろうと催涙弾や冷凍ガス、火炎を敵めがけて吹きまくる。また、バッジが発する警告音は兵士の闘争心を搔き立てる響きを持っていた。人口知能は常に冷静なアドバイスをくれ、さらには一度や二度負傷により心停止しても、心臓に打たれる強心剤によってすぐに立ち上がり、また戦い続けることができた。

 A国の戦争相手であるB国も、ただやられ続けるわけではなかった。異変の正体に気づいたのである。彼らが胸につける星型のバッジ。それの正体に気づいた。そしてB国も自軍の兵士にセキュリティバッジを付けさせた。そうしてA国とB国の戦力差は同程度になり、セキュリティバッジの需要は増していくばかりだった。


 セキュリティバッジの本社があるC国。二人の男女が暖かい日差しの下、公園のベンチでゆったり話している。胸にセキュリティバッジをつけて。

「昔は金持ちしか買えなかったセキュリティバッジも、今や誰もが買えるほど安くなった。それも、以前とは比べ物にならないほど高機能なものを。犯罪、病気、事故、どんなことにだって対応してくれる」

「ええ。今以上に平和な時代、過去にあったのかしら」

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