創世記

 少し先の未来。人類は突如として襲来してきたバミー星人によって支配されていた。彼らは逆らう者は容赦なく殺し、降伏した者を奴隷のようにこき使った。圧倒的な力の差に、人類はなす術もなかった。西暦は抹消され、バミー何年という風に暦は変えられた。ちなみに、今はバミー二百三十六年である。つまり、それだけの長い期間、人類は自由を奪われ、バミー星人の奴隷にされていた。しかし、人類は希望を捨て、ただ絶望の中を生き続けてきたわけではなかった。人類はずっと、起死回生の一撃を狙い続けていた。

 ある山奥。その地下深くに、その施設はあった。その施設の広さは相当なものだったが、その全域ほとんどを、ある巨大ミサイルが占めていた。今、その巨大すぎるミサイルの横を、科学者と最高司令官の男が感傷に浸りながら歩き、話している。

「今日と言う日を待ちわびていた。我々の祖先を含めた人類全てが、今日と言う日を心待ちにしていた」

「これだけの威力のものであれば、太陽を一万回破壊しても、おつりが有り余るほどです。祖先から受け継ぎ、極秘に開発し続けてきた超強力惑星破壊ミサイル。これをもって、バミー星を破壊する。バミー星の正確な位置は特定済みです。しかしまあ、多少ずれていたとしても、周りの小惑星もろともバミー星を消し去ることができます」

 最高司令官は思わず眼がしらをおさえた。

「このミサイルの発射と共に、人類は長く続いた暗黒時代を切り抜けることができる。忌々しいバミー星人め。このミサイルの発射と同時に、我々の新たな時代が始まるのだ。バミー何年とかいうふざけた暦を消し去り、新たな時代、創世記が生まれるのだ」

 研究者は溢れる涙をふくこともせず、感激に身を震わせながら、涙で赤くなった目で真っすぐ最高司令官を見つめ、ロケットの発射スイッチを手渡した。最高司令官はそれを受け取り、小さく頷くと、講義室のように広いモニター室へと向かった。そこにはすでにその施設で働く人々すべてが集まっていた。最高司令官はマイクを手に取り、彼らに向けて語った。

「我々人類は、今日までバミー星人から酷い扱いを受けてきた。言葉では言い尽くせないほど。しかし、それも今日までだ。みんな、本当によくやってくれた。みんなの努力が、人類に勝利をもたらした。ありがとう、本当にありがとう」

 波のような拍手が沸き上がる。叫び声のような歓声、風を切るような口笛、怒涛の熱狂の中で、彼はミサイルの発射ボタンを押す。彼の後ろに設置された巨大モニターに、ミサイルが轟音を立てながらゆっくり動き始める映像が流れる。人々の興奮はさらに高まる。そして、人々の収まらない歓喜を後に、ミサイルは確かにバミー星へと飛び立っていく。


 着弾まであと少しとなったころ。バミー星では向かってくるミサイルの存在に気づき、すぐに迎撃態勢がとられた。向かってくるミサイルに標準が合わせられ、発射された。それが恐ろしい末路に向かう結果となった。人類の放ったミサイルと、バミー星が迎撃用に放ったミサイルは使用している爆薬が異なっていた。それらは決して掛け合わさてはいけないものだった。もしそれらが掛け合わされた場合、想像を絶する爆発が起こるのだ。バミー星から放たれた迎撃用ミサイルが爆発し、それが人類の放ったミサイルに誘爆したその刹那、宇宙全体が真っ白な光に包まれた。それはもはや、爆発とは言えないほど、大すぎる何かだった。一瞬で宇宙に存在するすべてが無に帰り、またそのあとすぐに、何か確かな存在が、無の中から生まれた。

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