人類の弱点
月の裏側。そこには今、簡易宇宙テントが建てられ、その中でラマ星人の男が宙に映されたディスプレイを操作していた。そのディスプレイには、今まで彼が偵察して回ってきた数々の星の住民の弱点が示されている。恐ろしく長生きなラマ星人は、ここに来るまでに千年という歳月をかけ、キュラ星人にはAウイルス、ハミー星人にはBウイルスというように、数えきれないほどの星々の弱点を記録してきた。なぜそんなことをしているかというと、今後それらの星の住民たちが宇宙に進出し、ラマ星の脅威になったときに備えるためだ。そして今、ラマ星人は月を拠点にして地球をひそかに訪れ、人類の弱点を探っているのだった。
データの整理作業をしているラマ星人の男の元に、人間に変装して地球に偵察に行っていたラマ星人の青年が、擬態化スーツを脱ぎながら戻ってきた。
「どうだった。彼らの弱点はみつかったか」
「ええ」
「では、そのウイルスを教えてくれ。今データを打ち込んでしまうから」
青年は首を振りながら笑った。
「その必要はありません」
「なぜだ」
青年はポケットから紙切れを取り出して男に渡した。
「なんだこれは」
「これはお金と彼らが呼んでいるもので、これのためなら、彼らはなんだってするし、なんだってくれるのです」
「そんなバカな」
「僕もはじめは驚きました。でも事実なのです。彼らはこの紙切れを通して物の価値を定めていました」
男は眉間にしわを寄せて、信じられないように紙切れを見つめた。しかしどれだけ見つめても、彼らがその価値を信じ、この紙切れを欲する気持ちがわからなかった。男は肩をすくめて青年に紙切れを返した。
「しかしなぜ、人類の弱点が何かのウイルスでなく、その紙切れなのだ」
「僕は持って行った小型精密コピーマシンで、この紙切れを大量に作り出しました。そして、人類は紙切れのためならどこまでするか試してみました」
「どうだった」
「紙切れでまったく動かない個体もいましたが、紙切れのためだったら何でもする個体もいました。僕はその個体に注目しました。僕は偵察に行っていた三日間のうちに、彼らを利用して小規模な戦争を三つ作り出しました」
「なんだって」
「つまり、人類の弱点とは、この紙切れを使って殺し合いをさせることです。どうでしょう。丁度植民地を探していたところだったじゃないですか。武器なんていりません。危険なウイルスを培養する必要もないのです。僕たち二人で、地球を我々の植民地にしましょう。きっとうまくいきますよ」
「もしそれができたら、大きな手土産になる。昇進間違いなしだ」
そうして、彼らはたった二人で地球から人類を消し、そこをラマ星の植民地にすることを試み始めた。すでに二回計画を実行に移し、どちらも世界的な戦争の火種は切られたが、人類滅亡とまではいかなかった。しかし、彼らはコツをつかみ始めている。なにより、二人の昇進がかかっているのだ。きっと、次はもっと上手に紙切れを操り、より大規模な戦争を作るに違いない。
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