シャワー室

 私は最近、ジムに入会した。会社から駅までの帰り道にあり、ずっと気になっていた。それに加えて、腹のたるみが気になり始めたことが後押しになり、仕事終わりに週三で通うことが日課になった。運動とは本当に気持ちのいいものだ。特に、運動後のシャワーほど気持ちのいいものはない。私は今、汗にまみれた体に熱いシャワーを浴びせ、最高の気分になっていた。

 そのとき、ノックの音がした。常識のない人がいるものだ。ジムのシャワー室をノックするなど、どんなやつが、どんな考えでやるのか私にはさっぱりわからなかった。もちろん無視し続けていたが、ずっとノックの音が止まなかった。私は我慢ならなくなり、体をふいて服を着ると、ノックの音が止まないドアを開いた。

 すると、そこにいたのは、見覚えのある配達員の男だった。

「いつもありがとうございます。A運輸です。こちらにサインをお願いします」

 私は茫然とした。そんな私を見て、配達員の彼は首を傾げ、変わり者を見るような目で見てきた。私は眉間にしわをよせながら、彼が渡してきた紙を見ると、それは私が一週間前にネットショップで頼んだ品名が書かれていた。それに、そこにはしっかりと私の名前もあった。お届け先の住所はこのジムの、今私が使っていたシャワー03号室となっていた。私は自分がぽっかりと口を開いていたことに気づいた。

「サインをお願いします」

 配達員の男は催促するように言った。私は思わず「すみません」と言い、すぐに渡されたボールペンでサインをした。そして、注文の品を受け取った。

「ありがとうございまーす!」

 彼は元気よくそう言うと、シャワー室のドアをバタンとしめた。

 私はまったく訳がわからかった。なぜ家ではなく、ジムに配達に来るのか。考えれば考えるほど、なぜそんなことができたのか、また、なぜそんなことをするのかわからなかった。私はとにかく、シャワーをもう一度浴びることにした。


 それから数か月がたった。今でも私はジムに通い続け、そして時々、シャワーを浴びているところに配達員が荷物を届けに来る。人間は慣れる生き物というが、全くその通りだ。シャワー室に配達員が来ることに違和感は全くなくなったし、運動後の晴れ晴れとした気分の時に、注文の品が届くのは中々いいものだ。私は最近、ジムにハンコを持っていくようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る