優しい星で

 彼は探偵だ。トレンチコートに身を包み、シャーロックホームズがかぶっているような鹿撃帽を頭に乗せている。ただ、彼は地球にとどまらず宇宙全域を活動範囲としていた。彼は今小型宇宙船の舵を取り、ある場所へ向かっていた。

 先日、未開の星を探しに出かけた小型探索宇宙船が行方不明になった。行方不明となった青年の家族が、探偵である彼に捜索の依頼をした。彼は目を赤くした依頼主の手を固く握り、青年を必ず見つけ出すことを誓った。

 宇宙船が行方不明となった辺りに近づくと、遠くに惑星が目に入った。その惑星に近づいていき、無人小型探査機で調べてみると、文明が存在することが確認できた。男はその時点で、青年はおそらくこの星のどこかにいると目星をつけた。男はゆっくりとその星に着陸した。

 その星の地面に着陸すると、宇宙船の周りに星の住民が寄ってきた。男はその見た目から文明のレベルを察した。おそらく人類がまだ狩りをしていた時と変わらないレベルだ。男は安心し、銃弾すらもはじくスーツに身を包むと、宇宙船の外に出た。

 その星の住人達は友好的で、甲高い声を挙げながら、頭の上で手を叩いた。男を神様か何かかと思っているのだろうか。男はまんざらでもなかった。

 その時、遠くで悲鳴が聞こえた。声の方を向くと、キリンと犬を合わせたような生き物が、この星の住民たちを襲っているところだった。男はすかさずポケットからミニレーザー銃を取り出し、その生き物を撃ち殺した。

 そうしたときの、この星の住民たちの反応は意外なものだった。飛び跳ねて喜ぶものだと男は予想していたが、彼らはみなしくしくと泣きはじめた。男は翻訳機を介して、なぜ彼らが泣いているのか知ろうとした。

「どうして泣くのです」

 星の住民たちは、自分たちの言語で話す男に目を丸くしながら答えた。

「死が悲しいのです」

「怪物に襲われた仲間のことなら、非常に残念です」

「ええ、もちろん彼らの死も悲しいです。しかし、仲間を襲った犬キリンが死んだのも悲しいのです」

 男は翻訳機があの怪物を犬キリンと訳したことに笑いが噴き出しにそうなったが、それよりも怪物の死にすら涙をながす彼らに驚いた。

「犬キリンの死も悲しむとは、あなたたちは優しいのですね」

「死はどんなものであっても、誰に訪れるものであっても、とても悲しいものです」

 男は人とは考え方の異なる彼らに興味を持ち始めたが、行方不明となった青年を探さなければならないことを思い出した。

「私はこの星に用事があるのです。しばらくここにいさせてもらってもいいでしょうか」

「ええ。もちろんです」

 そうして男は青年の探索を始めた。ありとあらゆる場所を探したが、見つけることが出来なかった。そのうち日が暮れ、探索作業に疲れた男は、宇宙船を置かせてもらっている村に戻った。すると、彼らは親切に男のために部屋を貸してくれた。部屋に一人になった男は、すっかり疲れていたので、すぐに眠りについた。


 数時間後。深い眠りにつく男を星の住民たちが囲んでいた。目の周りを涙で赤くして。

「彼も死んでしまった。何が原因だったんだろう」

「きっと空気が合わなかったんだ。前に訪れた青年のように。なんと可哀そうに。できるだけ丁寧に埋葬してあげよう」

 彼らに睡眠という概念はない。そしてまた、寿命という概念もない。彼らにとって死とは避けられるものであり、不幸にも死に至った者には、深い同情と、溢れる涙と、燃え盛る炎で別れが告げられた。

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