底知れぬ森

 森ほど恐ろしい場所はない。森の奥深くには、恐ろしいほど獰猛な生き物がたくさん潜んでいる。しかしその中でも、最も凶暴で獰猛なのは全長三メートルにも及ぶ一体の巨大熊だった。その体に深く刻まれている数々の傷は、いくつもの戦いを勝ち抜いてきた、勝者の勲章だった。

 その熊はありとあらゆる獰猛な生き物と戦い、勝ってきた。猪、蛇、牡鹿、猿の群れ等々、挙げればきりがない。その熊にとって、戦いとは生きがいであり、そしてより強い相手に勝つことが誇りだった。

 しかし今、森の王者として君臨している彼は、生きがいを失っていた。自分より強い生き物がなく、戦いを挑んでくる者もいなかった。そんな彼に、一羽の鳥があることを教えた。それは、森を下り北に進んでいけば、ここよりも遥かに獰猛な生き物がたくさんいる森にたどり着くということだった。それを聞いた熊は期待を胸に、早速北に向かい始めた。

 

 二日後。とある家のリビングのテレビから、こんなニュースが流れた。

「A市A町に昨晩、全長三メートルほどの熊が出没しました。幸い怪我人はなく、現場に駆け付けたハンターによって射殺されました」

 コンクリートジャングルの方が森より遥かに底知れず、恐ろしい場所なようだ。熊はそのことを知るよしもなかった。

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