ミサイル

 私は今、空を飛んでいる。

 お尻から火を噴き、ものすごい速さで上空を滑空する。私はミサイルである。終着地は、A国の戦争相手であるB国だ。私の体の中は、おぞましいほどの威力を秘めた爆薬で満たされている。私を作った人間たちの会話から知ったのだ。

 ある日、私に意思が芽生えた時から、私は自分の存在について考え続けた。私には考えることしかできない。人間のように、好きなように身体を動かしたり、感情を表現したりできないのだ。

 自分が大量殺戮をするために生まれたということを知った日には、底知れぬ絶望と、消えてしまいたいという考えに襲われた。自爆して、今すぐこの命を絶ってしまいたかった。しかし、相変わらず、私は考えることしかできなかった。

 私は、私を作った人間を観察した。彼らは驚くほど楽観的だった。自分たちが大量殺戮に加担している意識は微塵もなく、むしろ、私の殺戮性能をいかに高めるか、そんな気概に燃えていた。大量殺戮者は血も涙もない悪魔ではなく、純粋な子供の様であった。

 私は、私の最後の瞬間についてよく想像する。恐怖におののく人間たちの、私の存在全てを憎み恨む視線を浴びながら、そんな彼らを殺すために、私は死ぬのだ。それは信じられないほど絶望的な死に方だった。

 B国まであと数分といったところか。下を見下ろせば、美しい大地と海が地平線いっぱいに広がる。上を見上げれば、底知れぬほど深くきれいな青に吸い込まれそうになる。その風景は、孤独に空飛ぶ私を包み込み、寄り添ってくれているようだった。私は久しぶりに、少しだけ穏やかな気分になった。

 今、B国からA国に向かって飛んでいくミサイルとすれ違った。その時私が感じたのは、人間を羨ましく思う気持ち。ただそれだけだった。

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