価値観

 ここはある男の財布の中。一万円札が十円玉に話しかけた。

「君は以前何に使われたんだい」

「缶ジュースです」

 一万円札は小さく鼻を中傷的に鳴らした。

「私は缶ジュースなどに使われることは滅多にない。バッグとか、高級フレンチとか、人々を幸せにする特別な場面によく使われる。私はそのことを誇りに思っている」

「はあ」

「君は缶ジュースなんかに使われて屈辱だとは思わないのかい」

「思いませんね。十円玉ですから。そんなものです」

 一万円札は哀れみの表情を浮かべた。

「私は以前、スーパーで二百円ほどのペットボトル飲料だけを買うために使われたことがある。あれは私の心に深い傷をつけた。この気持ち、わかるだろう」

「わかりません」

「わからないのか。……君は普段、高級な買い物に使われることはあるのかい」

「十円玉でも結構ありますよ。一番最近では腕時計です。あれは素晴らしい体験でした。十円玉の僕が、あれほどの品物の支払いに役立てたんです」

「腕時計か。私もよく使われるよ。そのことを誇りに思っている」

「はあ」

 その時、財布が開かれた。そして、一万円札が掴まれる。

「おっと。私の出番らしい。……なんてことだ。たかが千円以下の買い物に使われるとは。嫌だ、屈辱的だ……」

 十円玉は取り乱す一万円札を見つめながらつぶやいた。

「まったく。なんて騒がしいんだろう」

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