夢を食べる猫

 某国の山奥にひとつの研究所があった。

「博士。対象の脳波は安定期に入り、万事順調です」

「そうか。引き続き報告を頼む」

「はい」

 研究者の青年はそのような報告を終えてもその場を離れず、ひとつ咳払いをしてから、博士に訪ねた。

「この研究は何に役立つのでしょう」

 博士はガラス越しに猫を見つめたまま眉を少し上げた。

「何も考えず、我々はただ、国の命令通り夢を喰う猫について研究すればいいのだ」

「しかし、この研究は恐ろしさを含んでいる気がしてならないのです」

「私もそう思う。夢を喰う猫をポジティブに使う方法なんて思い浮かばないからな。しかし、研究なんてそんなものだ。今まで人類はネガティブな面に利用できるものを積極的に発達させてきたし、これからも変わらないだろう」

 青年もガラス越しに猫を見つめた。こいつのせいで、人々は夢を失ってしまうのだろうか。それは決してあってはならないことだ。青年は自分が何をすべきか、自問自答する。しかしどうしても彼の心は安定を求める。それがこの猫のせいなのか、それは誰にもわからないことだった。

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