さいわいなことり

 男は腹を立てていた。なぜなら、自分でも馬鹿馬鹿しいと思うような品を買ってしまったのだから。

 ある休日。男が自宅でくつろいでいると、来客があった。出てみると、セールスマン。暇だった男は、そのセールスマンと話していると、いつの間にか調子に乗せられており、一匹の小鳥を買ってしまったのだ。それも、中々高かった。

 セールスマンは、この鳥をこう説明した。

「この鳥は『さいわいなことり』といって、この鳥を飼えば、名前の通り幸いが訪れるのです。色も綺麗な青で、幸運が来そうでしょう。一匹いかがでしょうか。お安くしておきますから」

 今思えば、本当になぜ買ってしまったのかわからない。動物を飼うなんて面倒だ。つまらないことをしてしまった。

 男はしばらく『さいわいなことり』を見つめていると、いいことを思い付いた。きっと、いや確実に、この鳥はなんてことない、普通の鳥だ。それを証明し、あのセールスマンに返却すれば、嘘をついたお詫びとして代金に加えいくらか貰えるかもしれない。男は早速『さいわいなことり』を適当な箱に入れ、ペットショップに向かった。

「これは、さいわいなことりです」

 店員に『さいわいなことり』を見せるや否や、即答されてしまった。男は「ああ、そうですか」としか言えず、頭が真っ白になる。気が抜け、呆然とする。その時、男に渡された『さいわいなことり』は箱から飛び立ち、自由な空に還った。


 近くを歩いていた鳥学者の男は、空を飛び去っていく『さいわいなことり』を指差し、隣を歩く弟子の青年に、こう言った。

「あの鳥はサイワ・イナコ鳥と言って、この辺りでは滅多に見れないんだ。これは珍しい。いいことがありそうだ」

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