悪夢
住宅街の近くに位置するその病院には、悩みを抱えた一人の男が診察を受けに来ていた。その顔は疲労が強く表れ、青白かった。
「先生。この頃僕は、本当にひどい夢をみるのです。眠るのが怖くなりましたし、朝起きた時の疲労感といったら、たまったものじゃありません」
「どのような夢を見るのですか」
「口に出すのも恐ろしいです。僕には最近結婚した美しい妻がいます。僕は彼女のことを心から愛しています。それなのに、僕は夢で彼女を殺すのです。それもひどく残虐に。訳がわかりません。罪悪感に気が狂いそうになります。彼女はそんな僕を見て、優しく気遣ってくれるのですが、そんなことをされるとさらに自分を憎んでしまいます。先生、どうにかしてください」
「安心なさい。いい薬があります。これを飲めば一発で治るはずです」
「本当ですか。先生、ありがとうございます」
そうして男は青白い顔に喜びの表情をつけて薬を受け取り、軽快な足取りで帰っていった。
一ヶ月後。またも男が病院を訪れた。それも、顔には以前よりいっそう疲労が強く現れていた。完全に治ったものと思っていた医師は、二度目の男の診察に驚きを隠せないまま聞いた。
「あの薬はかなり効果がありますから、治ったものと思いました。まさか効かなかったとは」
「いいえ。僕はあの薬のおかげで、例の夢を一切見なくなりました」
「では、なぜまた診察にこられたのです」
男は言いづらそうに咳払いをひとつした。
「妻が浮気したんです。もう一度あの夢を見られるようにしてください」
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