真実の板

 遠い昔。休日ということもあり、その街のある酒屋はたくさんの人で賑わっていた。賑わいが絶えない中、一人の男が箱を台にして立ち、大声をあげた。

「皆さん。これを見てください」

 話し声が絶え、皆その男が持つものを見た。それは、まな板ほどの大きさの板だった。

 誰かが言った。

「なんだそれは」

 男は答える。

「これは、真実の板です。何かこの板に質問すると、それに対する答えが返ってきます」

 また酒屋にざわめきが起き始めた。皆信じられないような様子だ。そんな様子を見た男は、目の前の席に座っていた青年に言う。

「では、そこのあなた。この板に向かって、私の歳はいくつかと聞いてみて下さい」

 そう言われた青年は、困惑しながらも、それを言った。すると、板の上に十六才と文字が浮かんでくる。それは青年の年齢だった。

 ざわめきはさらに大きくなった。歓声や、信じられないといった声、悲鳴染みたものもあった。そんな中、学者風の男が聞いた。

「それは、一体どういう仕組みなんだ」

「特定の材料を板の上に塗っていくだけですよ。材料が何かは、後で皆さんに教えます」

 学者風の男は納得したような、してないような顔で「そうですか」と言った。

 次にその板を不思議そうに眺める女が聞いた。

「でも、なんでそれを皆に教えようと思ったの。それを上手く使って一儲けできるじゃない」

「そういうこともできますが、私は良心的なのです。この板を普及させ、たくさんの人の役に立ってもらい……」

 急に酒場が静まりかえった。そして、皆呆然とした様子で板を見ている。不思議に思った男も見てみると、そこには男の目論見が丁寧に、分かりやすく書いてあった。それは次のようなものだった。この板が普及すると人々の間にいざこざが増え、それはやがて国規模のものとなる。そして国同士の戦い、つまり戦争になるので、それを利用して大儲けしたいというものだった。

 それを見た人々は、男に向かって罵声を浴びせ始めた。ふざけるな、最悪なやつだ……。

 その罵声の中に、こんなものがあった。

「そんな世界、あってたまるか」

 すると板は、その言葉に答えた。見えるものを全くそのまま映し始めたのだ。そしてそれ以降は何を言っても、真実の板は沈黙を続けるように見えるものを映し続けるだけだった。


 何百年という時間が流れ、その板はある家の古い物置小屋から見つかった。その材料は科学者によって調べられ、大量に作られた。そしてそれは、誰が決めたか分からないが、鏡と名付けられ、今でもこの世界をそっくりそのまま映している。

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