整形と逃亡
ある日の昼間。顔の整形病院に、一人の男がやって来た。肩で息をし、右手には大きな黒いバックを持っている。
「顔を変えてくれ。今すぐだ」
「もちろんかまいません。しかし、料金の方が……」
「金なら山ほどある。これでどうだ」
男は持っていた鞄から札束を取り出して見せた。
「かしこまりました。では、すぐにとりかかりましょう。そこの台に横になって下さい」
男は言われた通り台の上に横になる。その横で医師が色々と器具を準備し始めた。男はしばらく天井を見つめ、ふと言った。
「俺のことを怪しんでいるだろう」
「どういうことですか」
「とぼけなくていい。予約もなく、いきなり顔をかえてくれというやつがいる。しかも、料金はと聞かれると、鞄の中から乱雑に札束を取り出するんだ。自分で言うのも難だが、明らかに怪しいじゃないか」
「そうですね。しかし、心配ありません。ここで整形をしたことは一切口外しませんから」
「俺はお前の言葉を信じるしかない。よろしく頼む……」
そう言って目を閉じた男に、医師は麻酔を打った。そして、男は深い深い眠りへ……。
「終わりましたよ」
男はその声で目覚めた。体を起こし、医師から渡された鏡で顔を確認する。そこには、全く別の顔があった。整形する前の顔の面影は少しも残っていない。あまりの変わりぶりに、鏡ではなく他人の顔を見ているようだった。
「素晴らしいできだ。ありがとよ」
男は札束を置いて病院を出た。
男はさっそく堂々と街を出歩く。顔が変わった今、警察から怯える心配はない。やったぞ……。
その時、後ろから声をかけられた。
「警察です。ご同行お願いします」
「なんだって」
頭が真っ白になった男は、抵抗する暇もなく、手錠をかけられ、連れて行かれた。
整形病院の医師は、男を整形するのに使った道具を片付けながら呟く。
「最近、私が過去に犯した犯罪を、警察が嗅ぎ付けてきた。自分の顔を整形したが、安心しきれるわけではない。そんなところに、丁度犯罪を犯したやつがやってきてくれた。そいつの顔を過去の私の顔にしたんだ。しかし、万が一ということがある。もう店をたたみ、人目のつかない山奥にでも逃げるか……」
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