手品師

 その青年は悩んでいた。職業は手品師。その腕は中々のものだったが、それは手品師のなかであれば並みのもの。青年は伸び悩んでいた。

 その青年がいつものように、近くの公園で手品を披露しに行くと、噴水の前に異常な程の人だかりができていた。

「なんだ、この人だかりは」

 青年が人だかりをかき分け、前に行くと、一人の男が手品を披露している所だった。どんなものかと見ていると、青年は度肝を抜かれてしまった。その男は口から炎を吹いたと思ったら、近くにあった小石を綺麗に輝く宝石に変えた。それを観客に向けて投げると、受け取った観客をウサギに変えてしまったのだ。観客から惜しみない拍手とチップが投げられる。青年も投げていた。青年はこの男の手品に感動さえ覚え、弟子入りすることを決めた。

 手品が終わり、人がそれぞれの方向へ散った後、青年は男の元へ行き、声をかけた。

「私は手品師をしているものです。先ほどあなたの手品を見て感動しました。弟子にしてください」

 男は少し迷惑そうな顔を見せた。

「弟子は間に合っているので」

「そんなこと言わずに、どうか、お願いします」

 男は少し考える素振りを見せ、言った。

「しょうがないですね、いいでしょう。では、ここにサインをしてください」

「本当ですか。ありがとうございます」

 青年は男に渡された紙にすぐにサインをした。すると、男の表情が一変し、恐ろしいものになった。

「内容をよく読んだか、馬鹿め。俺は悪魔だ。魂の代わりに願い事を叶えてやると言っても誰もくれないから、一工夫したらお前のようなやつが自分から声をかけてくれる。まあ、安心しろ。口から炎を吹けるようにしてやるから」

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