疑う男
ある街に、うまい話は絶対にないと思い込んでいる男がいた。うまい話はそうないというのは誰でも思っていることかもしれないが、この男の場合異常なほどだった。病的とも言えるだろう。
まず、宝くじは絶対に買わない。千円分買ったとして、それが何億円になるなんて話、あるわけないじゃないか。馬鹿馬鹿しい。
あの子が俺と食事したいだって。彼女は可愛すぎる。弄ばれているのだ。断ろう。
俺が部長に昇進だって。俺はまだ部長になるような歳ではない。何かよからぬ罠かもしれない。お断りします。
男は一切のうまい話を遮断し続けた。その結果、何かに騙されることは一回もなかったし、一攫千金なんてことも、起こるはずがなかった。
長い月日がたった。すっかり歳をとった男は、普通の一軒家で、普通の妻と子供にみとられて亡くなった。満足したような、してないような顔だったという。
男は目を覚ました。そこは天界。目の前には天使がいる。
「あなたは生涯悪事に手を染めることなく、人生を全ういたしました。よって、天国へ行けます。こちらへどうぞ」
男は顔をしかめた。
「なに。俺は教会に通って神に祈りを捧げ続けたわけでも、人の役にたつことをした訳でもないんだぞ。天国へいくための一切の努力をしていない。そんな俺が天国にいけるなんて、ありえない。さっさとどこかへ消えてしまえ」
天使は悲しげな表情になった。しばらく男をそんな表情で見つめると、男を天国へ連れていくのを諦めたのか、どこかへ羽ばたいて行ってしまった。
天使がいなくなると、入れ替わるように悪魔がやって来て言った。
「馬鹿なやつめ。自分から天国へいけるチャンスを台無しにしてしまうとは。お前は地獄行きだ。さあ来い」
男は安堵の表情を見せた。
「そうこなければ。俺が天国に行けるなんて、話がうますぎる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます