ラミー


「おもしろいものを持ってきましたよ」

 私の部屋に、部下の男が大きなケースを持って入ってきた。中に細かい生き物がたくさんいるのがわかる。

「なんだそれは」

「ラミーという生き物です。とても賢く、文明を築くことができる生き物なんですよ」

「それはすごいな。見せてくれ」

 部下は私の机の上にその大きなケースを置いた。顔を近づけてみると、米粒よりも小さく、人のような形をした生き物がわさわさといるのが分かった。

「なんだが愛着がわくな」

「そうでしょう。これから彼らは言葉を覚え、知恵を持ち、様々な歴史を築くのです」

「ほう……」

 私はじっとラミー達を見つめた。ラミー達は協力してバッタを倒し、それを家に運ぶ。そのどれもが頭を使った効率的なものだった。原始時代に人がマンモスを狩る様はこんな風だったのだろうと連想できた。

 私が見入っていると、部下に声をかけられた。

「ここを見てください。どうやら彼らは武器を作っているようです」

 部下に言われたところを見ると、弓矢のようなものを作っているようだった。

「器用だなあ」

「すごいですね」

 ラミー達は弓矢を使って虫を倒し始めた。しかし、しばらくすると、それはラミー同士の争いに使われた。ケース内の少ない土地と食料を奪い合い始めたのだ。ラミーは争うことによって、様々な技術をあっという間に発達させていった。

「おい、ここを見ろ。どうやら電気の存在に気づいたらしい」

 ラミーの電気を発見してからの成長はすごいものだった。道を舗装し、車のようなものを作り、街を築いてゆく。

 そしてついに、ラミーは大発明をした。ロケットを作ったのだ。マッチ箱ほどの大きさのロケット発射台に、マッチ棒ほどのロケットがすごいスピードで作られていく。

 ラミーたちは歴史的瞬間を見守ろうと、ロケット発射台の近くに集まった。二人もケースの外から息をのんでその瞬間を見守った。しばらくすると、ロケットはマッチに火をつけたときのような音と共に発射された。ロケットは少しの飛行の後、窓際の水槽に着水した。そして、宇宙服のような恰好をした数匹のラミーが水槽の中を歩きまわり、しばらくするとまたロケットで元のケースに戻った。

「本当にすごいな。今頃ラミーたちは、自分たちの成し遂げたことを誇りに思っているだろうな」

「ですね」

 私は食い入るようにラミーに夢中になった。次はどんな進化を見せるのだろう。一体どんな変化が……。

 しかし、それ以上ラミーが進化することはなかった。滅んだのだ。一発の爆弾を積んだロケットによって滅んだ。ラミーは争うことで文明を進歩させてきたが、終わりもまた、争いのためだった。

「こんなにあっけなく滅ぶとは。賢いのか頭が悪いのか、よくわからない生き物だったな」

「実はそれこそラミーの特徴なのです。ラミーはロケットを作れるようになると、必ずそれが原因で滅亡します。賢すぎるのでしょうかね」

 私はすっかり寂しくなったラミーの世界を物足りない気持ちで眺めた。つい先ほどまでは活気に満ちていたラミーたちの面影はどこにも見られなかった。そこには哀しさだけがあった。私は胸が締め付けられる思いだった。そんな時、部下が腕時計を確認し、私に声をかけた。

「あ、そろそろ時間です、指令閣下。最前線に送る兵士の数など、様々な決定をしてもらわなければなりません」

「もうそんな時間か。では、いこう」

 私はA国の最高軍事司令官。B国に勝つためなら、どんな手でも使うつもりだ。核ミサイルだって、勝つためなら何発でも打ってやる。私は軍帽をしっかりと被り直し、会議室に向かって歩き始めた。

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