第18話 寄付と安い正義 後編
件名:帝国側かもしれん。
夜に忍び込んでみたが書類と手紙を発見した。街の内情とまではいかないが、商品の価格の変動や諸々の生産状況、兵士の訓練の様子が書かれていた。気が付いたら返事をくれ。
そっちがその気なら色々手を貸すぞ? 奴隷番号のない女性の
朝からすげぇメール見ちまったよ……。クソやばい単語三つかよ。もう少し濁してくれ、コレ下ネタじゃねぇよ。
件名:殺っちまうか
ギルドで会おう。
それだけを返事して、いつも通り朝食を食べて出掛ける事にした。
「行ってきます」
「気をつけてー」
グリチネはタバコに火をつけ、煙を吐いてからいつも通り送り出してくれた。
「おはよー」
「あぁ、おはよう。昨日は助かった」
「いやいや、こっちも久しぶりに嫌な物が見れたよ。どうする?」
「まぁ、壁の外で話すか。ここじゃ……」
俺は周りを見て、ここじゃまずいだろって事で少しだけ言葉を濁す。
「だねー」
とりあえず門を出て城壁沿いに歩き、壁を背にして座り、喋る事にした。
「外で事故に見せかけるしかねぇか。炭坑に売りに行ってるって聞いたし」
「その事なんだが……。申し訳ない……」
即座に思い描いていたプランを言うと、ヘイはいきなり謝り、頭を下げた。
「どうした!?」
「ごめん、殺っちゃった……。どうやら俺は、衝動的に人が殺せる人間みたいだ。どうしても
ヘイは超笑顔で、語尾に音符は星でも付けるような感じで言い訳してきた。そしてその言葉に俺は固まった。ヘイってこんなに短絡的に動く奴だったのか? けど衝動的って言ってるしな。ゲームでは冷静なのに、怒る線引きは女性が関わる。も追加か。
「企画物の
ヘイは笑顔で、ポーチから書類関係全てを出してきた。頭をエンジョイ勢に無理矢理切り替えたんだろうか?
それと、話では自由度の高すぎるゲームも好きらしいから、殺して家捜しとかも、そっちで経験済みなんだろう。会った時にだかメールで、サイレントキルがどうのこうの言ってたし。
とりあえず書類に目を通すが、メールで書かれていた事は本当だった。そして、公爵に言われた事とボスの事も説明する。
「法的に無理かー。かといって奴隷商皆殺しも、経済に少なからず影響が出るしなー。もう国営の国家試験でクリーンな奴隷商でいいじゃん?」
「何年後になるんだよ。法はくぐり抜けるもんだ……。だから奴隷商があんな手段に出てる」
「お、なんか悪っぽい台詞」
「うるせぇよ……。そういえば虐殺現場はどうなってんだ?」
「放置。
「それだけが救いだな……」
「けど、女の子に大量に脳とか血がドロリしたけど、どうせ月一で見てるから、多分平気でしょ」
「いや、月一で脳味噌は見ねぇよ……」
とりあえず、これからどうするかを決めるが、公爵様の所に行って正直に話すしかないってなった。
□
門番に軽く挨拶すると、強張った顔で挨拶を返してきた。ついに顔パスか……。
「また君か……。私も忙しいんだが?」
執務室に通され、ウェスがこちらを多少警戒していたが、腰のポーチから書類関係を全て公爵の前に放り投げた。
「これは?」
「昨日の件? でちょっと話に出たやつだ。軽く目を通せ」
そう言うと公爵は盛大にため息を漏らし、羽ペンを置き、流し読みをしているのか手早く紙をめくっているが、とある場所で手が止まり、じっくりと読んでいた。
「これはこちらで預かっておく。それと、巡回の強化だけは早めにどうにかする。他にこの事を知っている者は?」
「商品を保管していた倉庫にいた奴は、悪いけどヘイが全員ぶっ殺した。他の場所に職員が泊まっていれば別だがな。直にウェスの耳にも、事件として入るだろうな」
そう言うとウェスは、何かを諦めたかのような顔で、頭を押さえて首を振っている。
「奴隷番号の書いてある書類は残してあるし、金品もそのまま。ぱっと見私怨みたいな犯行。けど連れ去られた奴隷はいなーい。犯人は何で殺したんだろう? あーらふっしぎ~。まぁ、そのうち、連れ去られた住人は兵士に連れられて家に帰されるだろうね」
ヘイは真顔でからかうように言っているが、特定できるのは分厚い刃物で殺された死体と、外に漏れたらやばい書類紙切れだけだ。銃は撃ってないし、特定は難しいだろう。目の前の二人が言わなければ……。
「おい、ふざけているのか? お前等は直ぐに殺しすぎだ!」
「いやー、偶然だよー偶然。隙を見て書類関係を盗もうと潜んでたら、目の前で
ヘイはウェスを見て腰の自動拳銃を抜き、ニコニコとしながらスライドを半分引いて、弾が装填されている事を確認して腰に戻した。そうしておけという警告のつもりなんだろうか?
「法ってたまに面倒だよねー。こういう灰色の奴等をどうやっても裁けない時があるし、そうすると犯罪率が上がる。なら殺すしかないじゃん? 見張りを増やすのは早めにね。じゃないと、似たような事件が増えちゃうからねー。あ、誘拐の方じゃないよ? 虐殺の方ね」
もうダークヒーローだな。特に悪いと思わないで仕事としてぶっ殺す俺。女性が絡む事や、法で裁けない奴を裁くヘイ。この街の偉い奴の胃がやばいな。
「まぁ、こっちもスパイ?
「もういいだろ。帰ろうぜ? 後は偉い奴の仕事だ」
「そうだね。とりあえず少し早いけどご飯食べにいこうか」
「そうだな。美味い店知ってんだ、そこに行くか」
俺達は頭を押さえている二人を無視し、勝手に退室して、そのままグリチネに教えてもらったレストランに行き、シェフのおすすめコースを頼んで、果実酒のフルボトルを二人で飲む事にした。
□
「さて、なにに乾杯しようか」
ヘイはそんな事を言い、俺のグラスにも酒を注いでくれた。
「連れ去られた子供や女性が家に戻り、今後誘拐が減る事に?」
「長くね~?」
「バカを気分良く減らした記念」
「それだ!」
ヘイはそう言ってグラスを傾けたので、俺は苦笑いをしながらグラスをぶつけた。
「んー美味しいな。今度から利用しよう」
「アフターで食べに来るのか?」
「いやいや、そういうのはないよ。一晩だけ。変に関わると、向こうが本気にしちゃう」
「好みの女性ってどんな感じなんだ?」
「童顔で胸が大きくて少しバカ」
俺はその言葉を聞いて、飲んでいた果実酒が気管に入ってむせた。
「冗談だよ。少し気が弱くて家庭的、献身的で守ってあげたくなる感じ。身長は少し低めがいいかな。あと胸にこだわりは特にないけど、太りすぎはダメ。筋肉質もダメかなー、冒険者で言うなら後衛女子? 前衛女子ってムッキムキかバッキバキじゃん? パン屋の看板娘とか、シスター。魔法使いに遊撃やってる、うっすらと筋肉の上に脂肪のついてる系……。いいよねー」
後衛女子って……。おもしろい言葉だな。
「まぁ、目の前に特殊趣味の人がいるけどねー。ロリコンの気もある?」
「うるせぇよ。貧乳でスレンダーが好きなだけだ。お前みたいに娼館なんか行かねぇよ。それこそ頻繁に行きまくるのは病気の類じゃねぇか」
周りの客に多少迷惑をかけつつ、あの時のウエイターに注意されるまで好みの女性談義をしいていたが、ヘイは誰でも良い訳じゃないみたいだ。
□
夜中。店を手伝っていたら奴隷商残虐事件の話で持ちきりだった。
「あいつ等、ガキや女もさらってたからな。あんな殺され方されて当然だ。やった奴も、もっとズタズタにしてやれば良かったのによ」
「本当だぜ。俺の娘も付けられてたって言ってたぜ」
「本当かよ!? さらわれてたら終わりじゃねぇか!」
「けどよ、なんでその場で解放しなかったんだろうな?」
「犯罪奴隷もいるからだろ。それに証拠も必要だろ」
そんな会話を聞きながら給仕をしていたら、グリチネがずっとニヤニヤしっぱなしだった。
「ずいぶん噂になってるわね。殺ったのはスピナ? それともヘイ?」
「おいおい、昨日はずっと頭撫でられてただろ。俺が殺ったっぽく言うなよ」
「なら失礼な方ね」
グリチネはニヤニヤしながらお茶を飲み、タバコを机にトントンと軽く落とし、葉っぱを片方に詰めていた。
「ノーコメントで」
◇
五日後。俺は何気なく教会に行ったら、正面のドアを取り替えてる最中で、色々な所に足場がかかっており、屋根に数人ほど補修工事をしている職人がいた。
少し悩んで、やれる物をお金のあるうちに全部やっておこうって感じなんだろうか? 寄付した物だから何に使っても良いんだけどね。
ってか、俺の特長を描いた看板立てるの止めてくれ。多額の寄付したのは認めるけど、お礼を言いたいからって情報収集しないでくれ。犯罪者みたいじゃねぇか。
そして孤児院にも向かうが、ボロボロだった服を着ていた子供達は多少マシな古着になっており、血色も少し良くなっている気がする。そして、家の横にある納屋に小麦が運び込まれてるのを見た。こっちは少しだけ使って貯蓄かな?
「あ、かおがこわいおっちゃんだー」
少し遠くで見ていたつもりだったが子供達に見つかり、顔の怖いおっちゃん呼ばわりされた。確かにそうなんだけど、少しへこむなぁ。
「あぁ、うまいもん食ってるか」
俺は近づき、柵越しに子供達に声をかけた。
「うん、やきたてのパンおなかいっぱいたべた」
「ひりゅーじゃないおにくくったよー」
子供達は、前歯がない笑顔で元気良く答えてくれた。こういうのはいいなぁ。
「おいおい、まだ大人の歯が生えてないんだから、あんまり大口を開けて笑うなよ。かわいい顔が台無しだぜ」
「いいの、わたしおっさんのおよめさんになるから!」
「ならおれは、おっさんのこぶんだ!」
「ははは、期待しないで待ってるぜ。じゃあな」
あまり長い時間いると、奥からフィルさんが出てくるからな。そろそろ帰るか。
□
そして夜になり、今日の事をグリチネに言うとニヤニヤとされた。
「あら、ハーレムでもお望みで? しかも幼女。少女趣味……。嫉妬しちゃいそう」
グリチネ、お前もかッッ!
「冗談きついぜ。俺にはそんな趣味はねぇよ」
「けど、子供は嫌いじゃない……と」
「まぁな。無邪気に遊んでるのを見ると心がホッコリする」
「気が向いたら産んであげようか?」
グリチネはタバコの煙を吐きながら、ニヤニヤしていた。
「この家業が落ち着いて、結構蓄えができたらお願いするかな。結構教会と孤児院にばらまいてきたけど。自分達用にな」
「冗談のつもりだったけど、そう言われたら断れないわね。けど、もう少しイチャイチャしたいわねぇ。子供がいると、二人の時間が減るし」
「そうか。そういうもんなのか……」
「私がそう思うだけで、他は知らないわよ? 早く欲しい人もいるかもしれないし」
「まぁ、かなり稼ぎつつもう少し待つって感じで」
「そうね」
二人でニコニコとしながらお茶を飲み、少し飲もうかって事になり、グリチネが果実酒の入った瓶とカップ、鍋に残っていた肉の煮込みを持ってきた。
たまにはこういうのも良いな。
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